2001 Fiscal Year Annual Research Report
有明・八代海沿岸域の自然環境評価と環境共生型社会基盤整備に関する研究
Project/Area Number |
10308026
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Research Institution | KUMAMOTO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
滝川 清 熊本大学, 沿岸域環境科学研究教育センター, 教授 (80040450)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
溝上 章志 熊本大学, 工学部・環境システム工学科, 教授 (20135403)
鈴木 敦巳 熊本大学, 工学部・環境システム工学科, 教授 (50040390)
古川 憲治 熊本大学, 工学部・環境システム工学科, 教授 (60029296)
原田 浩幸 熊本大学, 工学部・環境システム工学科, 助教授 (20222234)
松田 博貴 熊本大学, 理学部・地球科学科, 助教授 (80274687)
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Keywords | 有明・八代海の環境 / 自然環境評価 / 環境共生 / 干潟の底質土特性 / 干潟の浄化機能 / 有明・八代海の形成 / 環境質の便益評価 / 飛来塩分 |
Research Abstract |
1.有明海の潮流・物質拡散の数値計算を実施し、河川流入量変化、潮位変動、諫早堤防設置、熊本新港設置、ノリ網設置、風による吹送流等に伴う流況特性について検討した。また、干潟底泥の移動を調べる数値計算手法を作成し、地形変化の予測計算を行った。さらに、台風に伴う高潮題に対して、高潮と波と潮汐とを同時に考慮した数値計算手法を開発し、これを基に有明・八代海域における想定最大被害を対象としたハザードマップを作成した。 2.底質の物理・化学的性質に関して、底質浄化を主なテーマとし、底質に海水を通じて酸素を供給し、CODの変化を指標として底質の浄化を計る研究を行った。その結果CODの高い湾奥部(COD=15.3〜17.8)と比較的低い熊本市沿岸域(COD=9.2)の底質を対象に海水により酸素を供給してCODの低減を、バッチ試験とカラム試験によって調べたところ、以下の結果が得られた。海水による酸素供給で底質のCODは低減され、海水の酸素消費率は初期COD値が大きいほど高い。また、カラム試験では動水勾配が高くなるほどCOD変化率も大きくなる傾向がある。 3.有明海、不知火海干潟を対象とし、干潟の浄化能を自然浄化の一つである脱窒の観点より脱窒への影響因子の特定、緑川右岸河口干潟における脱窒活性の経年変化、底質の異なる干潟の脱窒活性の比較の検討を行った。その結果、脱窒への最も大きい影響因子として含泥量が挙げられ、そのことにより含泥量が約95%と非常に高く泥質である佐賀県域干潟において高い脱窒活性が得られた。また、緑川右岸河口干潟における脱窒活性の経年変化を検討した結果、脱窒活性は梅雨期の大量の降雨により窒素、炭素源の流入、蓄積が起こりやすく、かつ水温が高く脱窒菌の活性が活発な夏場に高い事が判明した。また、干潟に特異的な潮汐作用と底生動物の存在に着目し、これらによる干潟脱窒能への影響を評価した。脱窒速度と底泥の特性の関係を求めるために底生生物を導入した底泥と導入していない底泥を充填したカラムを用いて実験を行い、硝酸態窒素濃度の変化から脱窒速度を計算した。その結果から脱窒速度に及ぼす生物かく乱の効果は底泥CODや酸化還元電位に影響されることが明らかになった。 4.平成10年度に有明海中央部熊本沖の水深21〜44mの4地点から採取されたピストンコア試料について,昨年度までに実施された堆積相解析,珪藻・底生有孔虫群集解析,ならびに放射性炭素年代測定をもとに,過去1万年の本海域の環境変遷史の検討を行った.その結果,現在の水深50m付近では,約9,500年前頃から海域が進入し,約7,400年前頃には熊本沖一帯が現在と同様の湾央部の環境となったと推定される.さらに約5,400年前には最も海域が広がり,熊本平野一帯は湾央部の環境となったことが明らかになった.これらの成果は,論文ならびに学会講演により公表された. 5.環境の質の社会・経済評価を行う手法の一つとしての仮想的市場評価法(CVM)を用いて、白川・緑川河口域の干潟環境の保全に対する支払意志額を新課税および税再配分方式によって評価を行い,そのときに生じる差異の原因を理論的に分析し,どの程度評価額に差異が生じるかを実証的に検証した.この結果、白川・緑川河口一帯の干潟環境質の価値評価額は、新課税では約1,400円/世帯/年、税再配分では約2,000/世帯/年という結果が得られた。 6.これまでの研究成果のを一般公開を目的に、共同研究者等を中心に、有明海フォーラム"いのちの揺りかご「有明の海はいま」"〜よりよい未来のために〜を、平成13年11月22日、メルパルクKUMAMOTOにて開催し、参加者、約300名を得た。
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Research Products
(23 results)
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[Publications] 滝川 清: "高潮・潮汐・波浪の相互作用解析に基づく出現最大を想定した高潮・高波のハザードマップの作成"海岸工学論文集. 第48巻. 1366-1370 (2001)
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[Publications] 原田浩幸, 滝川清: "有明海泥質・砂質干潟底泥の水質浄化機能と生物撹乱の影響"海岸工学論文集. 第48巻. 1126-1130 (2001)
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[Publications] 北園芳人, 滝川清, 鈴木敦巳: "有明海と八代海における底質特性と底生動物の豊かさに関する研究"海岸工学論文集. 第48巻. 1131-1135 (2001)
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[Publications] 山田文彦, 滝川清: "高潮氾濫災害の被災要因とその危険度評価"海岸工学論文集. 第48巻. 1401-1405 (2001)
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[Publications] 田淵幹修, 滝川清: "熊本県の海浜植物分布と海岸環境"地球環境シンポジウム. 第9回. (2001)
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[Publications] 滝川 清, 田渕幹修: "出現最大を想定した高潮・高波のハザードマップの作成"平成13年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集 第II部門. II-9 (2002)
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[Publications] 滝川 清, 西本賢二: "有明海干潟の形成過程に関する基礎的研究"平成13年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集 第II部門. II-23 (2002)
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[Publications] 滝川 清, 柿木哲哉: "白川流入の影響を考慮した白川河口域における干潟地形変化の数値解析"平成13年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集 第II部門. II-24 (2002)
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[Publications] 吉村祥子, 滝川 清: "有明海の環境変化の要因分析に関する研究"平成13年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集 第II部門. II-27 (2002)
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[Publications] 松尾貴史, 滝川 清: "有明海域における2次元及び3次元流動場特性に関する研究"平成13年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集 第II部門. II-45 (2002)
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[Publications] 時枝琢, 滝川 清: "粒子追跡法による有明海の潮汐変動特性に関する研究"平成13年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集 第II部門. II-55 (2002)
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[Publications] 田中健路, 滝川清: "有明・八代海域における降雨特性の地域環境に与える影響"平成13年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集 第II部門. II-101 (2002)
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[Publications] 岩橋良憲, 古川憲治: "Evaluation of Denitrification capability in the Tidal Flats of the Ariake and Yatushiro Inland Seas"第5回世界閉鎖性海域環境保全会議. 117 (2001)
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[Publications] 原田浩幸, 滝川清: "有明海干潟底泥の浄化能力とその強化に関する研究"平成13年度日本水環境学会九州支部研究発表会. 5-8 (2002)
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[Publications] 馬渡和樹, 原田浩幸: "干潟底泥浄化能力の強化に関する基礎的研究"平成13年度土木学会西部支部研究発表会概要集. (2002)
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[Publications] 長谷義隆, 松田博貴, 秋元和實: "有明海海底柱状試料(AR98-A〜CおよびAR98-E)の珪藻化石群集の変化に基づく過去1万年間の水域環境変遷"熊本大学理学部紀要. (印刷中).
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[Publications] 秋元和實: "完新統有明粘土層産底生有孔虫の分類学的検討"日本地質学会西日本支部会報. 119・20. (2001)
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[Publications] 長谷義隆: "後氷期における有明海沿岸域の環境変遷"堆積学研究会2001秋の研究集会プログラム・集会資料集(熊本). 7-8 (2001)
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[Publications] 松田博貴, 長谷義隆, 滝川清: "ピストンコアに基づく有明海における後氷期の堆積過程"堆積学研究会2001年春季研究集会(京都). 65 (2001)
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[Publications] 松田博貴, 長谷義隆, 滝川清: "ピストンコアに基づく有明海の後氷期における堆積過程"日本地質学会西日本支部会報. 119-8. (2001)
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[Publications] 中原功一朗, 長谷義隆: "珪藻化石群集に基づく有明海南東部およびその周辺域の過去2万年間の環境変遷"日本地質学会西日本支部会報学会誌. 119-9. (2001)
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[Publications] T.Yamashita: "Red-Tide Prediction in Tanabe Bay, Observation"The 11th PAMS/JECSS WORKSHOP. 337-340 (2001)
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[Publications] T.Yamashita: "Red-Tide Prediction in Tanabe Bay, Modeling"The 11th PAMS/JECSS WORKSHOP. 341-344 (2001)