Research Abstract |
本研究では,我々がシールド型アークイオンプレーティング法を用いて合成に成功したアモルファス窒化炭素(a-C:N)薄膜を,ハードコーティング材料として実用化するための基礎的研究を行った.作製膜について,赤外吸収分光法およびX線光電子分光法によって化学結合状態を,またトライボスコープを用いて作製膜のナノトライボロジー特性を評価し,両者の相関を調査した. 【化学結合状態】成膜パラメータとして,窒素圧力および基板バイアスを変化させた.窒素圧力を増加させると,a-C:N薄膜中の窒素濃度は増加し,N/C原子数比=0.45まで達するが,高い圧力で作製した膜ほど,グラファイトライクおよびピリジンライクな成分で構成される平面的な結合状態となることがわかった.負バイアスの印加は,成長膜表面へのイオン衝撃効果をもたらし,膜中のsp3成分の形成が促進されるが,過剰な負バイアスの印加は,逆にsp^3成分のグラファイト化を促すと同時に,窒素含有率の低下をも引き起こした.圧力が高い条件では,気相中のイオンの平均自由行程が短く,負バイアス印加の効果が減少した.このように,sp混成比率およびN/C原子数比は,窒素ガス圧力および基板に印加する負バイアスによって制御可能であることがわかった. 【機械的特性】基板バイアスおよび窒素圧力をさまざまに変化させてa-C:N成膜を行い,トライボスコープにより超微小硬さを評価した.膜厚は150nm一定とした.その結果,基板バイアスを上げるほど,また圧力を高くするほど硬さが減少した.作製膜の結合状態分析から,過剰な負バイアスの印加は,膜中のカーボンネットワークをsp^2化させること,また窒素圧力の増加は,窒素含有率を高めるものの,C-Nの3次元構造ではなくピリジン的な結合を作りやすくさせることが示された.最も硬いa-C:N膜では,現在広く応用されているハードコーティング材料であるTiNよりも超微小硬度が高かった.また,1μm×1μmの領域を低荷重でスキャンし,その領域をAFM観察する摩耗試験を行ったところ,a-C:N薄膜の耐摩耗特性は,耐摩耗材料としてすでに実用化されているダイヤモンドライクカーボン薄膜よりもはるかに優れていた.このことより,本研究で合成されたa-C:N薄膜は,トライボロジー関連分野で有用な材料であることが明らかとなった.
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