2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10410005
|
Research Institution | UNIVERSITY of the SACRED HEART |
Principal Investigator |
岩田 靖夫 聖心女子大学, 文学部, 教授 (30000574)
|
Keywords | 国家 / 共同体 / デモクラシー / 自由 / 平等 / 個人 / 中庸 / 判断力 |
Research Abstract |
本研究テーマに関して、本年度私は次の二論文を執筆した。すなわち、「現代の政治哲学における基本的論点と問題点」(『中世思想研究』第42号、2000年11月、創文社)ならびに「アリストテレス『政治学』における中間の国制」(『思想』第920号、2001年1月、岩波書店)である。前者において、私は現代を文化的多元論の時代と見定め、これを前提としたあるべき国家の構想をロールズ、ノジック、テイラーの三人の政治哲学者の思想に依拠して検討した。ロールズの国家論は、自由と平等を絶対的な基軸としながら、宗教、習慣、思想などの多様性を許容する国家の構想で、現代の文化的状況にもっとも相応しい国家論である。これに対して、ノジックの国家論は西欧の個人主義を極端に徹底し、国家権力を極度に縮小した超自由主義の思想で、魅力はあるが弱者に対する配慮を欠く点で平衡感覚を失している。これらの両者に対して、テイラーは共同体論者として特徴づけられるが、その主張の核心は、人間は個人としてではなく共同体的伝統の中で初めて生存しうる、という点にある。このように、現代の政治哲学は個人主義的方向と伝統主義的方向とに二分して進んでいる。第二の論文においては、私は現代のデモクラシーの政治理念の土台がアリストテレスの『政治学』のうちで展開された「中間の国制」という思想にあることを明らかにした。すなわち、アリストテレスは、中庸を善とした倫理思想に対応して、政治思想においても、知と徳において卓越した一人の優秀人の支配ではなく、知と徳において平凡な多くの人々の判断力に政治の基礎をおく国家を「最善の国家」としたのであり、これがデモクラシーの基礎となる中間の国制に他ならない。以上、古代ギリシアの政治思想と現代の政治思想の両面から、デモクラシーの或る形態が理想の国制として漸進的に浮かび上がってきたのが、本年度の研究成果である。
|
Research Products
(2 results)