2001 Fiscal Year Annual Research Report
文学的パラダイムとしての帰属意識-ドイツ文学に見るアイデンティティ創出機能
Project/Area Number |
10410104
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
井上 修一 筑波大学, 文芸・言語学系, 教授 (10017634)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武井 隆道 筑波大学, 現代語現代文化学系, 助教授 (10197254)
相澤 啓一 筑波大学, 文芸言語学系, 教授 (80175710)
上田 浩二 筑波大学, 文芸言語学系, 教授 (30063796)
濱田 真 筑波大学, 現代語現代文化学系, 助教授 (50250999)
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Keywords | ナショナル・アイデンティティ / ナショナリズム / ゲーテ時代 / ヴィーン / 国民文学 / ナチズム / ナショナリズム意識の広がりと変質 |
Research Abstract |
過去三年間の研究業績により、国家統一が遅れ文化的帰属意識が先行せざるを得なかったドイツ語圏におけるナショナル・アイデンティティ形成経過が「ドイツ文化」を考察する上で欠かせない背景であったこと、さらに同じ構造が、ドイツと同じように「遅れてきた国民」を形成せざるを得なかった日本にとっても決定的に重要な役割を演じてきたことを、確認することができた。その共通了解をもとに、4年目を迎えた本科研プロジェクトでは、社会的アイデンティティ形成という共通テーマを大枠としつつも、各研究メンバーの関心に基づく個別研究を行う方向へと拡散してきた。濱田はヘルダーンに代表される18世紀におけるドイツ・ナショナリズムの萌芽期を対象としてナショナル・アイデンティティ構成の功罪を考察した。武井は、一方においてバレの歴史という、これまであまりドイツ(文学)研究分野では対象とされてこなかった領域のなかに我々の共通問題を考察しようと試み、17世紀のフランスの宮廷バレエと19世紀のロマン主義バレエを取り上げて、身体と記号(アレゴリー、象徴)と社会との関係の変化を考察した。他方で武井は、ユダヤ人のアイデンティティの問題を対象として、旧約聖書を中心に古代ユダヤ人の民族意識を分析したうえで、さらにドイツ文化における文化的マイノリティとしてのユダヤ人社会がその古代からの意識を受け継いでいることを指摘しようと試みた。相澤は近年のさまざまなナショナリズム論の理論的検討をおこなうなかで、他方でとりわけ「翻訳文化の国」と称されることの多い日本に関して、翻訳を通じてのナショナル・アイデンティティ形成のプロセスを論じ、アイデンティティ構成の媒体としての翻訳の役割を指摘した。上田は、グローバル化の進展に対して有効な対抗手段としての地域文化を考える際に、言語、なかんずく言語表現による「一体感(幻想)」の強化の問題を取り上げ、そこから19世紀の日独の文化ないし文学の状況をとらえ直す試みを行なった。また井上は「オーストリア文学の誕生と生成」という視点から、ドイツ語圏のなかで周辺へと追いやられていったオーストリアが18世紀にドイツと異なる独立国家としてのアイデンティティを模索し始めてから今日までの歴史を、主として文学者や文学研究者の発言・作品から跡付けようと試みてきた。 以上の研究による成果は、目下印刷原稿検討段階を迎えている論文集出版によって、公表することとなる。同論文集のすみやかな公刊により、この分野でび学術的寄与がなし得ることを目指したい。
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Research Products
(5 results)
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[Publications] 井上 修一: "翻訳者の役割"天城湯ケ島町編『天城湯ケ島 ふるさと叢書』. 第11集. 9-11 (2001)
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[Publications] 上田 浩二: "通訳という現象-異文化コミュニケーションにおけるその位置"筑波大学外国語センター『外国語教育論集』. 第23号. 187-203 (2001)
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[Publications] 上田 浩二: "Die Bedeutung des Ubersetzens in der japanischen Germanistik."Eine gewisse Farbe der Fremdheit …Aspekt des Ubersetzens Japanisch-Deutsch-Japanisch.. 125-149 (2001)
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[Publications] 相澤 啓一: "日独通訳とドイツ語教育"朝日出版社『外国語教育-理論から実践まで-』. 215-244 (2001)
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[Publications] 相澤 啓一: "Neue Aufforderungen nach dem Zeitalter der Literaturubersetzung."Eine gewisse Farbe der Fremdheit …Aspekt des Ubersetzens Japanisch-Deutsch-Japanisch.. 151-170 (2001)