Research Abstract |
ヒトの顎関節の三次元形態計測,応力解析,強度,耐磨耗性などを考慮して,本邦で唯一の人工顎関節を開発した.この人工顎関節の本格的臨床応用を行い,咀嚼,発音,嚥下機能や呼吸に及ぼす影響,そして顔面形態変化を解析し,より高度な人工顎関節へ進化させることを目的とした. 1.開発した人口顎関節の臨床応用:慢性関節リウマチによる変形性顎関節症患者に対し開発した人工顎関節の全置換術を10関節に施行した.いずれも経過は良好で,機能,形態とも十分満足できるものであった.ただし,破壊された人工顎関節をデザインして有限要素解析を用いて臨床上の応力解析および顎運動のシミュレーションを行い,実用化した. 2.人工顎関節全置換術による顎運動機能,呼吸機能の解析:人工顎関節全置換術後の顎運動をキネジオグラフィーを用いて検討した.健常者に比べ,変形性顎関節症においては,明らかに顎運動の制限が認められた.人工顎関節全置換術後の顎運動は開口量は増加し,咀嚼能率は高まっていることが確認されたが,前方への滑走運動および側方運動の制限が観察された.一部の症例で,開口障害が十分に回復できない症例がみられ,その原因として開口筋の萎縮が超音波像で確認され,筋のトレーニングの呼吸機能は明らかな改善がみられ,睡眠時の60秒以上の無呼吸は全例消失した. 3.顎関節変形と顎・顔面および気道形態の関連性の検討:変形性顎関節症による下顎骨の変形および移動により,上気道前後径形態の変化が観察され,人工顎関節全置換術により改善されることが明らかになった.しかし,上気道前後径は術後1-2年経つと,僅かに減少する傾向がみられたが,この原因については明らかでないが,呼吸状態に悪影響は与えていない. 4.人工顎関節全置換術の呼吸機能に及ぼす影響:変形性顎関節疾患者の手術前後の呼吸状態をアプノモニター(Eden Trace)を用いて,鼻呼吸,口呼吸,腹部呼吸運動酸素飽和度を定量的に解析し,いずれも著しく改善されることが確認された.今後,三次元有限要素法によるシミュレーションを用いて,顎運動及び応力の詳細な解析を行った. 5.有限要素解析法を用いて,二次元的,三次元的な人工顎関節の応力解析を行い,より強度のある人工顎関節の設計および作製を行い,臨床応用した. 6.人工顎関節の手術時の装着を容易にし,さらに機能性を高めるため,患者個々に適合したカスタムメードの人工顎関節を設計するための基礎的研究に着手した.
|