Research Abstract |
平成10及び11年度の研究から,低放射化マルテンサイト鋼は,優れた耐照射性および耐ヘリウム脆化特性を示すことが明らかになっている。その機構としては,当該鋼に特有のマルテンサイト組織が照射欠陥や核変換ヘリウムを捕獲し,材料に損傷を与える照射欠陥集合体やヘリウム-欠陥集合体の形成を抑制するためであると推察される。そこで,平成12年度は,当該鋼におけるヘリウムの転位トラッピング挙動に関する基礎的知見を得るため,純鉄を用いてヘリウム注入後の昇温脱離挙動に及ぼす冷間加工の影響を調べたところ,以下の成果が得られた。 1)表面からの脱離を除けば,注入されたヘリウムの最初の脱離は550℃付近に見られ,このピーク高さは転位密度の上昇につれて高くなる。 2)550℃のピークは,実用鋼においても見られる。 従って,低放射化マルテンサイト鋼においては,ヘリウムは空孔などの照射欠陥が存在する条件下においても転位に捕獲され,550℃以上で転位の捕獲から逃れることが判明した。逆にいえば,この温度以下であれば,ヘリウムは低放射化マルテンサイト鋼の特性に悪影響を与えることは無いと予測され,これまでに本研究で得られた実験結果と一致する。 また,ヘリウムは転位に比べ,空孔とより強い相互作用を持っており,ヘリウムの移動は空孔の移動に伴うことが推測される。照射量が増大し,核変換ヘリウム量が増えてくると,ヘリウムが空孔に捕獲され,空孔の易動度を低下させたり,空孔集合体の安定性を増大させることが容易に推測される。特に550℃以下においては,前者の効果が著しく,この現象を利用することにより,500℃付近で生じるマルテンサイト組織の回復を抑制できる可能性が高い。このような,いわゆるヘリウムのポジティブな効果は,低放射化マルテンサイト鋼に特有の現象であるか,他の候補材料にも応用できるかについては,今後の研究に委ねられる所である。
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