Research Abstract |
耳小骨に癒着が起こると,閾値が上昇する。現在,これらの疾患部位を,人工耳小骨などの形成材で置き換え,聴力の改善を行っている。この場合,耳小骨の可動性の確認が,術式上重要な要素となる。しかし,現在のところ,耳小骨の可動性は,熟練した術者が,ピック等を用いて耳小骨を押し動かすことで,経験的に判断しており,客観的な判断基準は確立されていない。本研究では,圧電素子で変位を制御したはりをアブミ骨に押し当て,はりのひずみを計測し,耳小骨の可動性を求める。そして,熟練術者の判断基準と比較することにより,客観的な耳小骨の可動性評価を行う。 現在までのところ,金属製の梁に歪みゲージを組み合わせたセンサを試作し,モルモットを用い,耳小骨の一つであるアブミ骨の変位と力の関係を測定し,アブミ骨可動性を定量的に求めた。その結果アブミ骨の反力は変位に対し指数関数的に増加し,非線形性を示した。モルモット17匹について測定を行った結果,小変位領域でのアブミ骨等価バネ定数は,6.7±4.2N/mとなった。 次に,アブミ骨が固着している場合の可動性を測定した。アブミ骨の固着は,アブミ骨底周辺に,フィブリン糊および瞬間接着剤を滴下することで作成した。その結果,正常耳に比べ,固着耳には,変位-荷重の関係にさらに強い非線形性が現れた。また,アブミ骨等価バネ定数も,フィブリン糊および瞬間接着剤滴下耳で,それぞれ7.6N/m,16.2N/mとなり,正常耳のそれよりも大きな値となった。以上から,本センサにより,固着したアブミ骨の診断が可能であることが示唆された。 今後,センサ部,およびセンサ駆動方法の改良を行い,耳小骨可動性の計測を簡便に行うことができるシステムを構築し,臨床応用可能性を検討してゆく予定である。
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