1998 Fiscal Year Annual Research Report
ヘラクレイトスにおける「対立者の同一性」の思想について
Project/Area Number |
10610012
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Research Institution | Jumonji University |
Principal Investigator |
三浦 要 十文字学園女子大学, 社会情報学部, 助教授 (20222317)
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Keywords | ソクラテス以前 / ヘラクレイトス / 対立者の同一性 |
Research Abstract |
ヘラクレイトスの宇宙論における重要な概念として「対立者の同一性」(coincidentia oppositorum)がある。対立者が具体的に言及されているのは、例えば、DK.frr.57(昼と夜)、60(上り道と下り道),61(清と濁),88(生と死、覚醒と睡眠、若と老),103(始めと終わり),111(病気と健康、飢餓と飽食、疲労と休息),126(冷と熱、湿と乾)である。Kirk/Raven、Guthrieなどはこれらを4つの範疇に分類しているが、その帰属は必ずしも一義的に決まるものではない。諸性質や諸現象などを二極的に捉える思考法はこの時代においては一般的であったと言えるが、ただヘラクレイトスが、対立するものは同じであると主張するとき、彼の思考法はそうした一般性を越えるものである。T.M.RobinsonやG.S.Kirkは「対立者の同一性」の概念をヘラクレイトスに帰することを否定し、単に同一のものについて正反対の観点があるということを述べているにすぎないとするが、この評価は、ヘラクレイトスの思想の一面しか捉えていない。対立者には、同時同一性を保っているものと、継起的同一性を保っているものがあり、そのいずれの場合においても、対立者は一定の連続体(continuum)を本質的に構成する要素であり、しかも前者と後者の関係は単なる実体と属性という関係ではなく(cf.J.Wilcox)、また、この連続体は、実際には宇宙全体からそこに内包されるもの(物体やその諸性質)にいたるまで様々なレベルにおいて成立していると言える。宇宙世界は、相互変化する諸事物をまさに変化の相においてそのまま包み込んでいるが、今後は、そうしたあり方におけるunityとidentityの区別(それがもしあるとして)に関して、そして「火」と対立者の関係等に関してさらに厳密に考察することが必要であると思われる。
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