1999 Fiscal Year Annual Research Report
内的実在論としての道徳理論と自由のリアリティーに関する研究
Project/Area Number |
10610030
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
宇佐美 公生 岩手大学, 教育学部, 助教授 (30183750)
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Keywords | 自由 / 内的実在論 / カント / 潜在能力アプローチ / 責任 / 価値実在論 |
Research Abstract |
本年度は,自由の意義を,その形式的・理論的側面と実質的内容の側面から検討してきた。一般に近代的自由については,伝統的な共同体内部の諸価値に束縛されることなく,それらの価値に対して批判力を持つという点から評価されてきたが,反面でそれが道徳の抽象化と価値のリアリティの喪失を促す,という反論を招くことにもなった。しかしこのことは自由にリアリティを付与できないということを意味するものではない。実際に、個人が選択できる生き方の幅としての自由を、単なる形式的な「機会」を越えて実質的に保障するために「潜在能カアプローチ」を提唱するA・センの研究などは、自由の具体的なあり方を示す試みとして読むこともできる。但し,これは富の配分や福祉など,社会的な行為の文脈における自由であり,それを形而上学的に支える道徳理論が別に必要であろう。これは何故自由であるべきかという問いに答えを与えてくれる理論でもある。 存在論の文脈で道徳を考える時に、特定の理論の下でリアリティーを持つ価値に,当の理論が支えられるという自已準拠の構造をもった「内的実在論」の特質が導きの糸になる。多くの価値実在論が自已準拠の構造をもつ中で,他の価値を超えて「自由」に当の理論支える根拠を設定できた希な例が、カントの理論である。「理性の事実」として語られるカントの道徳法則は、決して単に格率の形式的な普遍化可能性を語るだけではなく,それ自体「自由であれ」という内容を含む限りで、道徳の世界がリアリティをもって立ち現れてくること(より具体的にいえば責任性の文脈)を可能にしてくれる構造をもったものとして解釈することができる。なお、この構造が、善悪という一般の道徳的価値とどのような関係に立つかについては、次年度以降の課題としたい。
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Research Products
(1 results)