2000 Fiscal Year Annual Research Report
内的実在論としての道徳理論と自由のリアリティーに関する研究
Project/Area Number |
10610030
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
宇佐美 公生 岩手大学, 教育学部, 助教授 (30183750)
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Keywords | 内的実在論 / 道徳的実在論 / 自由 / カント / 徳 / A・セン / 責任 / 公民教育 |
Research Abstract |
カントの超越論的観念論を手がかりにしながら、内的実在論としての道徳的実在論の可能性を探ってきたが、実在論を求めるということは、単に古来の徳目を復活することではない。むしろ人間の本質や目的を知らないという意味で自由なもの同士が、互いを自由であるべく尊重する、というカントの「目的自体の命法」の内に新しい道徳的実在論の可能性をみた。 こうした昨年度までの成果をふまえて、本年度は、実在論のより具体的な展開を考えてきた。内的実在論により、さまざまな価値にリアリティを与える可能性は開けたが、特にカントの主張にも表れているように、「自由」という価値にリアリティを与えることが現代においては重要である。では、とかく形式的ないし主観的に扱われがちな自由に、リアリティーを持たせるとはどういうことであろうか。本研究では、一例として医療や福祉、さらに公民教育の場面を取りあげ、そこでで患者や障害者のWell-bingとQuality of Lifeを考えたり、公民教育で公共性の問題や自立と援助の関係を考えたりする際に、配慮すべき自由こそリアリティーのある実質的自由であり、そうした配慮のためには、例えばA・センが語る「潜在能力アプローチ」などが有効であることを明らかにした。だが反面で、社会的な機会の実質的平等への配慮とは別に、自由を実在論的に扱うには、自由の事実を客観的に認知し、適切な行為を喚起する力の陶冶が必要であり、そうした能力の喚起には別の(例えば責任論の側面からの)アプローチが必要であることも明らかになった。
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Research Products
(2 results)