2000 Fiscal Year Annual Research Report
社会保障制度の倫理学的究明-ローカルな正義と世代間の公平とを軸として
Project/Area Number |
10610031
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川本 隆史 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (40137758)
|
Keywords | 社会保障 / 社会正義 / 世代間の公平 / 福祉国家 / 連帯 / 互助 |
Research Abstract |
本研究は、英語圏の倫理学・社会哲学の領域で活発に論議されてきた「社会正義論」を、わが国の医療・福祉・年金制度などの「社会保障の構造改革」の指針として活用する方途を探るとともに、社会保障を支える《連帯・互助》の理念を社会倫理学の観点からより原理的に解明することをねらいとする。 最終年度にあたる本年度は、前年度末に刊行した共編著『応用倫理学の転換-二正面作戦のためのガイドライン』(ナカニシヤ出版)に対する複数の書評に応じながら、現代倫理学の隘路と突破口を解明する作業から取りかかった。またこれと並行して、現代の倫理学が負っている「特別な困難」と「不幸な事情」を描き出そうとした清水幾太郎の名著『倫理学ノート』を復刊し、解説を寄せた。 「世代間の公平性」を一つの争点とする環境倫理学に関して、公文書における「環境倫理」の登場と消滅の経緯をたどる論文と、経済学者アマルティア・センの仕事が環境倫理学に与える示唆を明らかにする論文とを執筆した。なお本年度いっぱいをかけて共訳を仕上げたJ・ローマの『分配的正義の諸理論』が近々木鐸社より刊行される運びとなっている。 本研究のまとめをかねて取り組んだのが、日本哲学会の2001年度大会でのシンポジウム「正義と公共性」での報告原稿である。そこでは「ローカルな正義」を構想するJ・エルスターと「介護の町内化」(介護関係ではなく介護力だけの社会化を肯定する)を提唱する三次春樹とを対質させておいた。詳しい研究実績に関しては、研究成果報告書に譲りたい。
|
-
[Publications] 川本隆史: "環境倫理の消滅?-モラルとルールの《つなぎ目》をめぐって"『21世紀フォーラム』(発行:政策科学研究所). 74号. 24-27 (2000)
-
[Publications] 川本隆史: "『倫理学ノート』私記-二五年後の感想"清水幾太郎『倫理学ノート』講談社学術文庫. 459-475 (2000)
-
[Publications] 川本隆史: "倫理学の隘路と突破口-予備的な覚え書き"『思索』(編集・発行:東北大学哲学研究会). 33号. 1-22 (2000)
-
[Publications] 川本隆史: "誰の効率?/何の平等?-社会倫理学の観点から"『第7回アカデミック・フォーラム報告書:日本における効率と公平』(発行:早稲田大学産業経営研究所). 37-42 (2000)
-
[Publications] 川本隆史: "権利・人口・情報-センと環境倫理学"鎮目志保子ほか編『現代環境学1997/1998/1999年度冬学期講義録』(一橋大学). II135-II145 (2000)
-
[Publications] 川本隆史: "均衡・義務・介護-現代正義論の方法と課題"『哲学』(日本哲学会). 53号. 1-13 (2001)