1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10610055
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
佐々木 英也 東京芸術大学, 美術学部, 教授 (50000394)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野寺 玲子 東京芸術大学, 大学美術館, 助手 (50302930)
田中 久美子 東京芸術大学, 美術学部, 助手 (70222114)
薩摩 雅登 東京芸術大学, 大学美術館, 助教授 (80272657)
越 宏一 東京芸術大学, 美術学部, 教授 (60099934)
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Keywords | 聖ペテロ伝 / 教会堂壁画 / 中世イタリア / 旧サン・ピエトロ聖堂 / 壁面装飾システム / 壁面装飾プログラム / 翼廊壁面 / 図像プロトタイプ |
Research Abstract |
ペテロ伝サイクルで飾られた中世イタリアの教会堂といえば、現存する主要作例として、ピサ近隣のサン・ピエロ・ア・グラード、トゥスカーニアのサン・ピエトロ、アッシージのサン・フランチェスコ上堂、パレルモのカペラ・パラティーナ、モンレアーレ大聖堂が挙げられる。これらのうち、アッシージとモンレアーレのサイクルは、注目すべきことに翼廊もしくはこれに属する空間に配されているが、これは決して偶然の一致ではない。ここに古いプロトタイプ、すなわち、旧サン・ピエトロ翼廊のペテロ伝サイクルの影響を想定すてきである。 上記の5つの作例は図像学的に見れば、結局、一つの共通のプロトタイプに遡る可能性が高い。そして、このプロトタイプの最古の痕跡は、近世の模写(J・グリマルディ)によって伝えられる、ヨハネス7世のオラトリウムのモザイク(8世紀)に認められる。ここでは、ペテロ伝サイクルの各場面が描かれた壁面は、上下に重ねられた複数のゾーンに区分されているが、このような平坦な壁面を多層に構成するシステムそのものはーー別の図像ではあるがーーローマではヴィア・ラータのサンタマリア(8世紀)やサンタ・プラセーデ(9世紀)の壁面にも見出される。このタイプの源泉を求めるならば、これも、近世の改築によって失われたサン・ピエトロ翼廊のモザイクに遡る(ストックホルムにある16世紀の素描参照)。しかも、この翼廊モザイクの主題は、グリマルディ(16世紀)が記しているように、まさにペテロ伝であった。 問題は、その製作年代である。これについては、従来、4世紀と7世紀の二つの節が提唱されてきたが、後者の節が妥当と考えられる。巨大な翼廊の壁面に多場面多層構想のペテロ伝サイクルを配するタイプを4世紀に求めることは難しく、また、ペテロ伝という図像選択そのものも7世紀の歴史的背景(旧サン・ピエトロのアプシス外枠の銘文参照)の中で理解すべきである。
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