1998 Fiscal Year Annual Research Report
知覚の制約条件に関する比較認知科学的・比較発達学的研究
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10610072
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 和生 京都大学, 文学研究科, 助教授 (80183101)
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Keywords | 知覚制約条件 / 知覚的補間 / 物体の一体性知覚 / 顔認識 / 境界知覚 / 霊長類 / 類人猿 / ハト |
Research Abstract |
ヒトは種々の仮説を利用して外界の事物を認識する。例えば隠蔽物の背後を同じ方向に動いている物体を見れば、それはひとつのものだと認識する(物体の一体性知覚)。このような認識は、多くの場合に当てはまる仮説を当該の事象に当てはめているに過ぎないが、ふだんわれわれはそれを意識しない。本研究の目的は、知覚を制約するこのような仮説がヒトの進化の過程でいかにして発生したのかを明らかにすることである。本年度は、霊長類と鳥類(いずれも成体)の図形知覚過程を分析し、比較した。まずハトを対象に、物体の一体性知覚を分析した。横方向に運動する1本の棒図形と中央部が切れた2本の棒図形の見本合わせを訓練した。習得後、棒の中央部を細い帯図形で隠した刺激を提示し、1本、2本のいずれの比較刺激を選ぶか調べたところ、ハトは2本の方を選ぶ傾向が強かった。この傾向は棒図形が帯の「手前」を動く条件でも見られた。ハトは帯の上下の刺激を分節した図形と認識しているのではないかと思われる。ハトでは霊長類のように知覚的補間を裏づける証拠が得られなかった。これは過去の研究と一致する。次に霊長類の顔状図形の認識を分析した。模式的な顔図形を2種類用意し、そのうちの一方を恣意的に正刺激とする同時弁別課題をリスザルに訓練した。同時にこれらを倒立にした図形、顔の部品をでたらめな位置に配置した図形、またそれらの倒立、の3タイプの弁別をも訓練した。サルの学習速度はでたらめ図形よりも顔図形の方が早く、部品を顔状に配置した図形の認識が容易であることが示された。また、チンパンジーの時空間的境界形成(ランダムドットの物理的属性を仮想的な図形を移動させて次々変化させると、図形の輪郭が明瞭に知覚される現象)過程を分析した。ヒト同様、毎秒提示されるフレーム数によって、輪郭の知覚が変わることがわかった。現在、フサオマキザルの知覚的補間過程を分析している。
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[Publications] 藤田和生: "比較認知研究から見た擬人主義" 動物心理学研究. 48(2). 209-215 (1998)
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[Publications] 藤田和生: "動物のあいさつ行動" 國文學. (印刷中). (1999)
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[Publications] Fujita,K.(Siberberg,A.): "Natural choice in nonhuman primates." Journal of Experimental Psychology : Anmal Behavier Processes. 24(2). 215-228 (1998)
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[Publications] Fujita,K.(Ueno,Y.): "Spontaneous tool use by a tonkean macoque (Macaca tonkeana)" Folia Primatologica. 69. 318-324 (1998)
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[Publications] 藤田和生(粟津俊二): "社会的関係がラットの食物伝達に与える影響" 動物心理学研究. 48(2). 183-190 (1998)
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[Publications] 藤田和生: "比較認知科学への招待-「こころ」の進化学" ナカニシヤ出版, 247 (1998)
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[Publications] 藤田和生(浅野俊夫): "動物コミュニケーション-行動のしくみから学習の遺伝子まで(訳書)" 西村書店, 569 (1998)