Research Abstract |
1. 筆者の研究グループは1995年から,音読課題を用いた意味的プライミング効果に関する実験的研究を行ってきた.この研究では,文中の多義動詞を人が理解する際に,統語的情報(格助詞など)と意味的情報がどのように相互作用するかを明らかにするため,クロスモダル・プライミング法と音読課題を用いている.従来,用いられてきたボイスキーによる測定には,信頼性がないことがいくつかの研究によって明らかになったため,本年度は,被験者の音読反応をDATへ録音し,デジタル化した音声スペクトログラムに基づく視察という手続きによって分析を行った.この成果は,1999年度の日本心理学会大会と,国際認知科学会大会にて発表する予定である. 2. 理論的研究として筆者のグループでは,上記のクロスモダル・プライミング実験に対応した並列分散処理モデル(コネクショニスト・モデル,ニューラルネットワーク・モデル)によるコンピュータ・シミュレーションを行ってきた.筆者のグループが作成した,相互結合型ネットワークに基づく並列分散処理モデルは汎用性が高く,筆者らによる過去の様々な実験データを包括的に説明し,さらに,本研究における実験結果を予測することができる.本モデルに関する筆者らの投稿論文は,今年度,学会誌に掲載された.また,ニューラル・ネットワーク・モデルやコンピュータ・シミュレーションに関して,専門書に分担執筆した. 3. 筆者の共同研究者のグループ(カリフォルニア大学,カーネギーメロン大学)によって,音読反応を録音することなしに,リアルタイムで音読潜時測定を含む適切な音声分析を行う,PC用の実験・測定プログラムが英語環境で開発されている.本年度は,このプログラムを日本語環境のPCで動作するように設定する作業を行った.これと関連して,上の1.でも述べたが,ボイスキーの限界といった,認知心理学における音読潜時測定の諸問題や,音読データの音素レベルにおける分析の必要性等を紀要論文にまとめた.
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