Research Abstract |
鈴木・春木(1995,1996)が報告した,手を左右に反復開閉する動作と抑うつ気分状態との関連性について,十分な被験者数を対象にして相関関係を再確認した。抑うつ感の高い被験者は,動作速度が有意に遅く,また,動作速度の周期的秩序構造が低下していたことが改めて明らかとなった.抑うつ感との関連性は,動作速度よりも動作速度の周期的秩序構造の方が大きく寄与していた.さらに,抑うつ感の高低の約70%が動作の2指標のみで判別できることが明らかとなった. 次に,動作速度と動作速度の周期的秩序構造を操作した場合の気分状態の変化を実験的に検討した.速度の操作では気分状態は有意に変化しなかったが,速度の周期的秩序構造を高めると抑うつ感などの気分状態がポジティブに変化した.また,気分状態を操作した場合にも動作速度が有意に遅くなり,速度の周期的秩序構造にも有意な変化が見られた.これらの結果は,動作と気分状態の循環的因果関係を意味している.そこで,動作時系列データに対してカオス解析やフラクタル解析を行い,心身一元論的な視点からの記述を試みた. 先に述べた動作の周期的秩序構造とは,動作速度時系列データの自己相関関数の分散値という数学的意味による表現であったが,経験的な言語記述を試みた.その結果,低うつ群に見られた自己相関関数の分散値が大きいという動作は,「バランスが良く,動作に集中しており,美しく,粗雑でなく,ぶれていない.また,長期的に安定しており,心がこもっており,丁寧で,規則的,安定している」などの言語表現されることが明らかとなった. 呼吸については,感情喚起場面における胸部と腹部の呼吸運動の協調性について検討した.ストレスフルな状況では,胸部と腹部の呼吸運動の相対位相の標準偏差が増加しそれらの協調性が低下することが明らかとなった.また,リラックスした状況では,逆に協調性が高まることが示された.
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