1998 Fiscal Year Annual Research Report
学術出版における意思決定プロセスに関する文化生産論的研究
Project/Area Number |
10610165
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
佐藤 郁哉 一橋大学, 商学部, 助教授 (00187171)
|
Keywords | 出版不況 / 再販制度 / 非再販本 / 大学出版部 / 中央公論社 / 硬派出版 / 書籍流通 / 取次 |
Research Abstract |
複数の出版社および大学出版部(出版会)の編集者に対するインテンシブな聞き取りおよび資料収集を中心として調査を進めてきた。並行して刊行文献や過去5年にわたる報道資料を中心として遡及的な文献リサーチも行い、学術出版のみならず出版・書籍流通業界一般の動向とその問題の構図の中に学術出版を位置づける作業を進めてきた。 その結果、以下のような事が明らかになった。 1. 売れ行きの落ち込みと業界全体にただよう閉塞感. 97年にはじめて前年割れを示した雑誌・書籍全体の売り上げは98年になって更に落ち込み、また老舗の中央公論社が読売新聞社の傘下に入り、さらに従来出版社の経営を支えてきた雑誌までもが売り上げ減となり、また休刊・廃刊が相次ぐなど、業界全体に閉塞感が漂う展開となっている。 2. 再販精度見直しの動きと非再販本の試み. 98年に書籍や雑誌の再販についての公正取引委員会の結論が出されたものの、これは問題を先送りするものでしかなく、出版をめぐる制度改革とそれへの業界の対応は緊急の問題になっている。その中で自由価格本や雑誌の新たな試みがなされている。 3. 書籍流通革新の試み. 大手2社による募占状態にあった書籍流通の世界に宅配便や出版社と書店をダイレクトに結んだ流通経路の設定など新たな試みが進んできた。一方では、他産業の低迷などによる大都市圏における大型書店の新設や増床の動向など市場規模の縮小とは裏腹の動きも生じている。 4. 大学出版部新設の動き. 出版業界の低迷の一方では、98年には大学出版部協会のメンバーが24大学出版部になるなど、大学改革の動きと連動する形での大学出版部新設の動きがある。これは、一方では一般の出版社が放棄しつつある「硬派」の出版機会の減少傾向を補完する形になっているが、他方では、学術出版の世界における新たな競合や「すみわけ」の問題をも生みだしている。
|