1998 Fiscal Year Annual Research Report
アメリカ社会における「共産社会」思想興隆の社会・歴史的背景に関する研究
Project/Area Number |
10610197
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
和田 修一 早稲田大学, 文学部, 教授 (30106215)
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Keywords | コミュニタリアン / コミュニタリアニズム / 市場原理 / 経済効率 / 社会的価値 / イデオロギー / 規範的統合 |
Research Abstract |
文献研究ならびにR.Bellahカリフォルニア大学(バークレー校)名誉教授との対論をとおして、この10〜20年位の間にアメリカ社会において徐々に支持者を獲得しつつあるコミュニタリアニズムの実情について研究を実施した。その価値志向運動は依然として少数者の運動に過ぎず、将来的にもアメリカ社会の中で優位を占めることはないのではないかというのがベラー教授(コミュニタリアンの一人として著名な研究者である)の見解であったが、しかし社会・政治イデオロギーの分野においてはコミュニタリアンの価値観から見たアメリカ社会の(病理や問題性を中心にした)研究が増加しつつあることもまた一方の事実である。 ベラー教授等の主張の中に端的に表れているように、コミュニタリアンによるアメリカ社会の現状批判の中心には競争原理に基づく市場経済の行き過ぎに対する異議申立てが存在する。つまり、経済的効率性や経済的価値を追求する上で自由競争を基本理念・原理とする経済市場は(今日の経済的豊かさが示すように)大きな成功をおさめてきたが、しかし一方でこの経済的成功は社会の中での「汎経済主義」を生み出している原因ともなっている。快楽主義の横行や行き過ぎた個人主義といった価値イデオロギーが人々の意識を支配し、その結果コミュニティのもっていた秩序維持の機能が喪失され社会の統合が危機に貧している、というのがコミュニタリアンのひとつの主張である。 こういった現状を踏まえて、コミュニタリアンはコミュニティの持っていた規範的統合機能を復権させることを主張するのであるが、こういった価値志向運動が敢えて推進されるアメリカ社会の歴史的・文化的背景を明らかにすることによって、規制緩和が叫ばれているわが国社会のあり方を比較的に究明する視点構築のための土台を築いた。
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