1998 Fiscal Year Annual Research Report
米国進歩主義教育期と現代における「公共性志向の学校改革」に関する研究
Project/Area Number |
10610246
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
早川 操 名古屋大学, 教育学部, 教授 (50183562)
|
Keywords | 卓越性をめざす教育政策 / 学校選択 / 市場原理 / ケアリング・マインド / ケアの連鎖構造と同心円構造 / チャーター・スクール / アイデンティティ・ポリティクス / 多焦点的アイデンティティ |
Research Abstract |
平成10年度は、現代アメリカにおける教育改革の動向と特徴を明らかにするため、1980年代からの改革動向の検討を中心に研究を進めた。とりわけ重点を置いたのは、平等性重視から卓越性中心への教育政策転換の意味を考察することと、その過程における具体的展開としての「マグネット・スクール」や「チャーター・スクール」などの学校改革の特徴を検討することである。今回の学校改革の特徴として浮かび上がってきたのは、生徒の学業成績を向上させるために「教授方法やカリキュラムの革新」を強調することではなく、「学校間の競争」や親の「学校選択」 (市場原理の導入)を認めたり、親や教師のヴォランタリーな起業家精神の発現としてのチャーター・スクールの創設を奨励するなど、「教育政策における革新性」に力点がおかれていることである。その意味では、この改革の基底には、「私事化と公共性」をめぐる教育論争が潜んでいるといえよう。 このような動きのなかで周辺的な位置に置かれている感があるが、リベラルやラディカルな学校改革案も検討に値する。80年代から90年代にかけてのリベラルな改革案の代表として、ネル・ノディングズの「ケアリング理論に基づく学校改革案」を考察した。同氏が提唱する「ケアの連鎖構造と同心円構造」を中心とした学級経営とカリキュラムの提案は、「ケアリング・マインド」育成をめざすわが国の教育改革にも示唆的であることを指摘した。またラディカルな学校改革案としては、ヘンリー・ジルーのそれを取りあげた。現在の教育改革で忘れられている公正や公共性の原理に基づいた学校改革の動向を検討することにより、教室での「アイデンティティ・ポリティクス」を通じて形成される「多焦点的アイデンティティ」構造の解明と、そのための教授方法やカリキュラム開発の特徴について究明した。
|