1998 Fiscal Year Annual Research Report
消費社会における教師役割-学校機能縮小論と共同性確立論の間で-
Project/Area Number |
10610264
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
油布 佐和子 福岡教育大学, 教育学部, 助教授 (80183987)
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Keywords | 消費社会 / エスノグラフィー / 教師一生徒関係 / 教師役割 |
Research Abstract |
豊かな社会における学校の正統性の危機が指摘される現在、学校の機能と教師の役割をめぐって、「学校機能縮小論」と「共同性確立論」という相対する二つの議論が展開されている。本研究は、こうした相対立する指摘を視野に入れながら、消費社会において教師が担うべき役割についての有益な提言を行うことを意図している。 本年度は、エスノグラフィーの手法を用いて、教師の日常の教育行為、とりわけ教師-生徒関係に焦点を当てた学校の内部過程と教師役割を把握することに努めた。消費社会の影響を受けた子どもが、教師に何を要求しているのか、教師の対応がそのような要求に応えうるものになっているのかを探るためである。 平成10年6月から実施し、現在も継続中のエスノグラフィーによって得られた知見のなかで特徴的なことは、1)学校現場では教師-生徒間でプライベートな情報のやりとりが頻繁に行われていたことである。また、こうして出来上がった関係性を通じて、2)生活指導の場面では情緒に訴える指導が有効に機能していた。一方、「生徒理解」とは名ばかりの生徒操作は、たちどころに生徒によって見抜かれ非難されていた。 ところで、3)時間・空間を共有する教師とのプライベートな情報のやりとりは、生徒の側から見れば次のような意味を有していると推測された。第一に、大人世代の価値・態度に接することにより、将来像に係わるある種のモデルを形成している、第二に、その教師がどのような人間であるのかを見極めて、教師の指導の内容の真偽性の判断や、それが受けとめるに足るものなのかどうかの判断の根拠にしている。 わが国の教育においては「絆」 「心に触れる」という様な言葉で表現される教師-生徒の信頼関係が基本にあるという指摘があるが、生徒の成長という側面からも、フォーマルな教育内容の伝達という面からも、プライベートな情報のやりとりをつうじて形成される教師-生徒関係は、現時点においても有効に機能していると思われる。 近年、中学校では、フォーマルな約束事が基準となって指導が行われるような傾向があるが、日常的に行われている教師-生徒関係のこのような「関係性」の実際と機能について十分に認識する必要があるだろう。 なお、上述した知見は、「中学校における教師-生徒関係」というタイトルで1998年10月に開催された日本教育社会学会第49回大会で発表した。
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