1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10610304
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Research Institution | 九州芸術工科大学 |
Principal Investigator |
松永 建 九州芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (40040993)
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Keywords | 神楽 / 九州北部地域 / 保持組織 / 音楽構成 / 芸能集団 |
Research Abstract |
本年度は、熊本県以北の九州北部地域の神楽調査を主に行ったが、併せて、関連する神楽地域として島根県の石見神楽のうち、佐陀神能の調査(録画資料)と大元神楽の資料調査を実施した。また、宮崎県の一部の神楽(高千穂神楽系)も補足的に調査した。 本年の研究調査の主眼を神楽の伝承と保持組織(保存会等)の実態の分類に置いた。世襲的神職によって伝承されてきた神楽が、明治初期の神仏分離政策により民間の氏子集団中心に移管されて、現在著名な神楽のほとんどが「座、講、社」等と呼ばれる神楽集団によって維持されるようになった。特に近年は芸能集団化するものが多く、演出、装置、衣装等も華美になりつつある。しかし、第二次大戦後は、神社の神主のみを集合し、神事中心の神職神楽を再組織しているところがあり、九州北部地域のうち福岡県、長崎県の神楽組織の多くが該当する。北九州市遠賀川東地域の「筑前御殿神楽」、鞍手郡鞍手町室木神社の「六嶽神楽」、飯塚市と周辺町村の「嘉穂飯塚神楽」、長崎県の「壱岐神楽」、「平戸神楽」、「五島神楽」などである。総括的に述べると、これらの神職神楽組織による所は、演目は限定されるが上演状況はしっかりしているのにたいして、氏子等の保存会組織では、後継者の減少、保持者の高齢化などの問題が慢性化しており、多くの神楽が消滅の危機に瀕している。さらに近年では、神楽保持組織の理念や目的が、神楽という芸能を多様化するという状況を生じさせている。すなわち、祭例等の神事を中心とする本来的なものから、幾つかの演目をもって近郊の神社の祭例に奉納して回る集団、そして神社を離れ、観光的な性格を付加した芸能集団に至るまで拡大しつつある。こうした状況を社会学あるいは芸術学(音楽学他)などの視点から再検討し、芸能としての神楽伝承の体系を再構築することが来年度の課題である。
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