2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10610323
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Research Institution | NAGOYA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
稲葉 伸道 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (70135276)
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Keywords | 東大寺 / 東南院門跡 / 尊勝院 / 真福寺 / 聖珍法親王 / 聖教 / 信瑜 / 談義所 |
Research Abstract |
今年度は最終年度として、前年度に引き続き門跡について検討した。その検討項目については、基本的に前年度の報告書の記載事項と変わらないので省略する。、また、これ以外に新しく真福寺所蔵東大寺文書および東大寺記録の研究と、それらを所蔵する真福寺の特色について検討した。その結果、(1)真福寺所蔵の東大寺文書は鎌倉末期の東大寺東南院や尊勝院聖教の紙背文書であること、(2)これらの聖教が真福寺に現存する理由は、南北朝期の真福寺第二世住持の信瑜が東大寺東南院門主の聖珍法親王から付法伝授されていることによると考えられること、(3)東南院門跡聖珍は法親王として長くその地位にあったが、その事跡はこれまでほとんど知られておらず、真福寺文書中にある聖珍関係の文書は東南院の南北朝期のあり方を知る上で重要であること、(4)東南院聖珍と根来寺中性院院主増喜との関係が認められること、など新事実が明らかになった。真福寺に多く所蔵されるさまざまな古典籍の伝来の許がどこにあったのかを解明する糸口が見いだせたものと考える。 真福寺が様々な聖教を集積したもう一つの理由は、この寺が真言宗の談義所であったことによると思われる。談義所はこれまで天台宗において認められていたが、真言宗にも存在し、学問所として数多くの聖教を書写集積したものと思われる。南北朝・室町期の地方寺院の学問所としての側面の解明、真言密教における論議の意味などを今後さらに検討する必要があると考える。これまで、中央の大寺院のみを検討してきたが、これからは大寺院と地方寺院との人的交流や聖教の伝播の側面の検討が必要である。また、朝廷や幕府とこうした地方寺院との関係も今後の課題として残った。
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