1999 Fiscal Year Annual Research Report
日本列島最古の化石人骨の発見を目指して-瓢穴遺跡の旧石器時代の文化層の調査
Project/Area Number |
10610397
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Research Institution | Tohoku Fukushi University |
Principal Investigator |
梶原 洋 東北福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (80161040)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
百々 幸雄 東北大学, 医学部, 教授 (50000146)
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Keywords | ひょうたん穴遺跡 / 化石人骨 / 学際的研究 / 土壙 / 中期旧石器時代 / 獣骨化石 / 儀礼的行為 / 洞穴遺跡 |
Research Abstract |
◇はじめに 最近の上高森の調査などによって日本列島の人類の歴史が50〜60万年前以前に遡ることがわかってきましたが、肝心の主人公である旧石器以前の人類化石に関する学術調査による発見はこれまでほとんどなく、日本列島の旧石器時代人の系統や進化については、まったく手がかりがない状態が続いています。そこで、東北旧石器文化研究所と東北福祉大学考古学研究会は、地元の研究者の方にも呼びかけて、ひょうたん穴遺跡調査団を組織し、岩泉町の多大なご援助のもと、1995年(第1次)から1998年(第4次)まで、前期・中期旧石器時代の化石人骨の発見を目指して学術調査を実施してきました。この間、人類学・古生物学・地質学・地形学・理化学年代など多くの分野との学際的研究によるさまざまな成果は今後の研究の好例として特筆すべきです。 本年も4月30日から5月10日まで第5次調査を実施ました。その結果、下記のような発見がありましたのでご報告いたします。 ◇遺跡の位置と立地 ひょうたん穴遺跡が位置する岩手県下閉伊郡岩泉町一帯は、約1〜2億年前に形成されたわが国最大規模の石灰岩地帯で、周辺には100ヵ所以上の大小様々な洞穴や岩陰が点在しており、そのうち約20ヶ所が人類に関わる遺跡とされています。ひょうたん穴遺跡は標高178m、現河床面との比高差約50mに位置し、間口・奥行き共に約20m、高さ約10mで、高位段丘群形成期以前に侵食され、少なくとも30万年前以前に開口したと考えられています。 ◇これまでの調査経過と成果 これまで洞穴奥をA区、洞穴入口斜面部をC区、開口中央部をD区、C区の西に隣接した地区をE区と設定して発掘調査を実施してきました。 1995年の第1次調査では、A区10層からシカの焼けた歯や中足(手)骨など、18層から鋸歯縁石器1点、C区の6層から斜軸尖頭器2点、スクレイパー3点とクマの臼歯1点が発見されました。1996年の第2次調査では、A区の11a層から二次加工剥片1点・剥片2点・シカの骨2点(部位不明)・12A層から斜軸尖頭器1点・スクレイパー2点・シジミ1点、12c層から斜軸尖頭器1点・D区の3層下部から局部磨製石斧1点と種類不明の骨片が発見されました。1997年の第3次調査では、A区の18層から両刃スクレイパー1点、両面加工の小型尖頭器1点、E区の6層から斜軸尖頭器1点、サイドクスクレイパー2点、小型
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尖頭器1点、二次加工剥片1点、剥片1点が発見されました。1998年の第4次調査では、新設した洞穴の奥(F区)とA区、ひょうたん穴の下位22mに位置する「しんいち岩陰」で調査が行われました。A区18層からは、頁岩の斜軸尖頭器2点・両面加工尖頭器5点など9点の石器てが発見されました。F区では、東西80cm×南北60cm×深さ45cmの土壙が発見され、埋土の最上層と底部から頁岩製の斜軸尖頭器、スクレイパー、流紋岩製のノッチ、さらにシカの肋骨が発見されました。しんいち岩陰からは、頁岩できた両面加工尖頭器など3点の旧石器とシカの骨片1点が発見されました。 なお、各区の層名は、まだ遺跡全体で統一されたものではありません。 ◇第5次調査の成果 本年度は、小洞穴のF区、本洞穴のA、D、B区に調査区を設定しました。A区では、昨年度の調査部分の北側に2×1メートルの部分を調査しました。遺物は骨片が数点出土しています。B区では、東側の部分で、黒色土と灰の互層が発見され、縄文早期中葉の条痕文土器、早期初頭のひょうたん瓢筆穴式の無文土器、早期以前の型式名不明の無文土器が層位的に出土しています。このほかに、多数の石鏃と箆状石器、スクレイパーなどが出土したほか、骨針などの骨角器も相当量出ています。珍しい資料としては頁製の平玉も発見されています。その他に、縄文晩期・弥生時代の土器も出土しました。D区では、A区と結ぶ部分の最上部の石を除去し、その下の調査を行った結果、縄文早期末の表裏縄文土器とともに獣骨の集中が認められました。同様の状況は、D区の北側でも検出されていて、獣骨のほかにシジミやカワシンジュガイなどの貝類や魚骨も出土しており、縄文時代早期の食生活に関する豊富な情報が得られました。今回調査の中心となったのは洞穴最奥部のF区です。調査成果としては(1)10万年前の5層(A区18層上面相当)から9点の石器が極めて狭い範囲から発見されました。石器の内容は、斜軸尖頭器1点・スクレイパー3点・楔形石器2点・剥片3点で、かなり使い込まれた石器が多くをしめています。(2)石器のほかに、すぐ近くからシカあるいはカモシカとクマの骨が出土しています。日本では火山灰が酸性のため、旧石器遺跡で石器と獣骨化石が同一面上で一緒に発見された例はほとんどなく、今回の発見が食料の残滓と道具が共伴した国内で最古の事例となりました。(3)剥片の一点には、先端部に衝撃による折れ痕があり、ルバロワ尖頭器の一種と考えても良さそうです。(4)また、F区の南側では、3層(A区10層上面相当)から2点の石器と一緒に4点のシカの骨とその下から大形のシカ目の大腿骨が集中して発見されています。年代的には、4・5万年前と推定されます。特に大形のシカの骨は、オオツノジカやヘラジカなど、現在日本には生息しない絶滅種に属する可能性があり、骨に残された石器の傷などを調べることにより、具体的な解体の方法を知ることもできます。さらに、前例と同様に石器と獣骨化石の共伴例として貴重なものです。昨年の土壙とその中から出土した石器と考え合わせると、この洞穴最奥部は、何らかの儀礼的な行為が実施された場所である可能性が強くなってきました。 今後の課題としては、洞穴前半部にある落石をどのように取り除いて、旧石器人の生活面を調査するのかが重要になってきました。調査面では、岩泉町のご協力を仰ぎながら日本最古の化石人骨の発見まで、調査を継続していきたいと決意を固めています。今後とも一層のご支援をよろしくお願いします。 Less
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Research Products
(1 results)