2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10610409
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Research Institution | KYOTO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
内田 賢徳 京都大学, 総合人間学部, 教授 (90122142)
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Keywords | 新撰字鏡 / 玉篇 / 切韻 / 玄応音義 / 倭訓 / 訓詁 |
Research Abstract |
平安時代初期の古辞書『新撰字鏡』は、中国の音義書、宇書、韻書を骨格として、それに当時行われていた、日本における倭訓資料を増補して構成されている。ただし、その構成にこれといった体系的な方法はなく、雑然としていて、諸資料は混在したままである。 本研究は、まずその混在した状態を解きほぐすことに始まる。しかし、その作業のためには、全体に亙って綿密な本文分析を行わなければならない。既に前年度までにそのかなりの部分については進めてきたが、全体に亙って整えるには至っていない。困難点は、標出字についての訓義の出典を明らかにする分析作業にある。分析は、中国の諸文献に就いて進められるが、それらの文献自体の本文批判が、残存資料の少なさという障害に、しばしば当面するために進捗の速度が上がらず、それらと倭訓との関係の解析という、本来の研究課題に取りかかるまでに多大な時間を要した。 そうした中で、本年度、新たに、倭訓に、特定の訓読資料に付けられた訓を採集するだけでなく、『玉篇』(ただし原本系の)の注文に従ってそれを倭語化するものの認められることを見出した。また、拠った倭訓書であると見られる『臨時雑要字』に国字の多いことから、八世紀から九世紀にかけての漢字使用の、『萬葉集』などからは知られない一面が窺え、木簡資料とのつきあわせの必要が生じた。 様々に雑然とした古辞書の解析は、八世紀末から九世紀前半の日本語について、新しい知見をもたらす可能性を秘める。本研究は、その探究のための基礎を作るものであった。
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