1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10610419
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長島 弘明 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授 (00138182)
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Keywords | 上田秋成 / 伝記 / 文人 |
Research Abstract |
本研究の初年度にあたる平成10年度は、主として上田秋成の40歳の加島(大阪郊外)移住以前の伝記の解明に主眼をおき、俳諧、浮世草子、入門期の国学について精査した。 1, まず、秋成の文学的な原点である俳諧については、紹廉・白羽らをはじめとする大阪の都市風の俳人と親しいことを確認し、秋成の俳諧作品を当時の俳書から拾い上げ、新出句を見出すことができた。また、秋成の俳諧は、当時の大阪俳壇の主流であった宗因風の俳風に近く、時に雑俳の俳風にも近似して人事句主体であることを明らかにした。 2, 『諸道聴耳世間狙』『世間妾形気』の2作の浮世草子執筆に関しては、大阪の粋壇の人士との交流が重要な意味をもつこと、特に主たる出版元の正本屋清兵衛をはじめとして、歌舞伎愛好家連中との交流が大きな意味を持つことを明らかにした。『諸道聴耳世間狙』『世間妾形気』と一見対照的に見える『雨月物語』の執筆についても、主版元の野村長兵衛が粋壇の世話役的な人物であるところから、意外にも前2作と同様に、大阪粋壇からの影響が濃いことを明らかにした。 3, 国学について、秋成が加藤宇万伎へ入門した時期については、諸説があっていまだ確定していないが、秋成や宇万伎の動静を資料的に検討して、従来有力であった33歳入門説に対し、いま少し遅い入門を考えるのが妥当であること、具体的には38歳の入門が資料的には蓋然性が高いことを明らかにした。とすれば、35歳の『雨月物語』執筆の後ということになり、同作への国学の影響を論じる際に、大きな影響を与えることになる。
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