1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10610419
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長島 弘明 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (00138182)
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Keywords | 上田秋成 / 伝記 / 文人 |
Research Abstract |
本研究の第2年次に当たる平成11年度は、秋成40歳から60歳に至る壮年期の活動の解明に主眼をおいた。この期間は、大阪市中あるいはその郊外に住んで医者として生計を立てながら、国学研究を深め、和歌・和文の創作に手をそめた時期に当たる。 1,まず、国学研究の始発期に当たる、40代前半の加島在住時代の国学研究の実態を、香具波志神社所蔵資料を中心に整理し、明らかにした。秋成の国学の骨格をなす『伊勢物語』『源氏物語』などの王朝古典研究、仮名・音韻論、古代難破の地誌的考証などへの関心が、早くもこの時期から芽生えていたことを確認した。 2,『呵刈葭』にまとめられている天明年間の本居宣長と論争を、周辺資料を精査することによって再考した。『呵刈葭』に名の挙がる藤貞幹や砺波今道の著作を発掘し、論争の背景と経過について新たな知見を得た。 3,和文の作品の内、「秋山記」「藐姑射山」「山裹」「岩橋の記」などの紀行文に注目し、同時代に多い俳文紀行とは異質な、秋成の和文紀行の特色を明らかにした。すなわち、俳文紀行のようには歌枕・俳枕などの名所旧跡探訪を第一の関心とはせず、風物と人事と思索の渾然一体となった秋成和文の特徴を確認した。 4,壮年期の大阪文壇・京都文壇の人士との交流の様相について調査した。木村蒹葭堂・橘経亮・几董など、この時期に秋成が頻繁に接触した人物の伝記資料を収集し、秋成側の資料と突き合わせることによって、交友の具体相を新たに把握した。
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