1998 Fiscal Year Annual Research Report
西夏文字資料による中国近世語史研究の可能性に関する基礎的研究
Project/Area Number |
10610439
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大塚 秀明 筑波大学, 現代語・現代文化学系, 助教授 (60168995)
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Keywords | ハラホト文献 / 文海宝韻 / 番漢合時掌中珠 / 軽声 |
Research Abstract |
本年度の主要目的である基礎資料の収集は,刊行中の『俄蔵黒水城(ハラホト)文献』(上海古籍出版社)を柱に進行中であるが,第7巻「西夏文世俗部分」の入手で今年度の研究は大きく進んだ。特に該書に収められている4種類の影印文献のうちの一つである『文海宝韻』を史金波教授(昨年9月より東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の客員教授として来日)のもと指導を受け研究すると,新しい事実が明らかになった。 史教授は昨年12月21日同研究所内における「言語接触研究発表会」において,西夏語研究の現状と『文海宝韻』についての研究報告を行い,大塚は通訳および解説を担当した。 (1) 書名:これまでは刻本『文海』と写本『文海宝韻』の存在が知られていたが両者の関係に定説がなかった。今回の調査で両者は同じ本で『文海宝韻』が正式な書名と判明した。 (2) 作者名と製書年代:西夏文字による序文の断片をつなぎあわせ解読すると“羅瑞智忠"という人名と“[天]賜礼盛国慶元年"(1069年)という年号を読み取ることができた。 (3) 上声韻の補充:刻本『文海』には上声韻部が欠如していたが,写本『文海宝韻』の上声韻部を読み取り,関連資料の『音同』を参照することで上声韻部の復元が可能になった。 (4) 人声韻の発見:西夏語の声調は平声と上声の2種類と考えられてきたが,写本『文海宝韻』には(2行であるが)入声が記述されていた可能性を発見することができた。 大塚は上記とはべつに『番漢合時掌中珠』の音注索引を編集し,漢字と漢字の音注に使われた西夏文字には1対1の対応が考えられるのに,同一の漢字の音注に異なる西夏文字が使われている場合を分析考察しているところである。仮説として,中国近世語の特徴の一つである「軽声」の存在の可能性を念頭に作業を進めている。
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