1998 Fiscal Year Annual Research Report
現代中国文学と「諷刺」に関する研究-小説創作と文学論を中心にした考察
Project/Area Number |
10610443
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
弓削 俊洋 愛媛大学, 法文学部, 助教授 (20200868)
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Keywords | 現代中国 / 諷刺 / 馬識途 / 諷刺小説 / 腐敗 |
Research Abstract |
人民共和国建国後の中国では、「少しでも批判的で諷刺的ニュアンスを帯びたものは、全てよからぬ下心があるとみなされ」(劉賓雁)、過酷な弾圧を受ける、という状況が続いてきた。 しかし、厳しい環境のなかにあっても、巧妙且つ辛辣に諷刺を行い、中国人のしたたかな諷刺精神を示す作家たちがいる。本研究では、こうした作家の小説や評論などを対象にして、現代中国における 諷刺の「系譜」と「諸相」を明らかにしようというものである。 このうち今年度は主に馬識途(1915年生まれ)の小説を対象にして研究を行い、論文「現代中国の《諷刺小説》」(『愛媛大学法文学部論集 人文学科編』第五号)おいて、その成果を公表した。 当論文のなかで研究代表者は、30編の短編小説からなる『馬識途諷刺小説選』 (1996年)を取り上げ、四川省の党・政府機関幹部でもある作者が、「腐敗」を中心にして現在の社会問題を告発する小説を発表し続けてきた仕事の集大成であり、共産党幹部の作者が党の腐敗を告発する点が大きな特徴となっていることを明らかにした。しかも特権化や腐敗、「指導」の名で行われる文芸界への介入が、中国社会に深刻な悪影響をもたらしたという事実、さらにはこれらの問題が過度な権力の集中という「根っこ」から派生しているという事実の指摘を通じて、「独裁的権力者」を頂点としたピラミッド体制の不条理にまで攻撃の矛先が向けられれている点に、この小説集の諷刺文学としての大きな功績があることを明らかにした。同時に、党幹部という立場からくる限界をもっている点も指摘したうえで、より辛辣な諷刺の展開は、他の「諷刺作家」たちに求められていると結論した。 さらに、種々の限界をもちながらも、したたかな諷刺精神を有する中国人作家は想定していた以上に多いこと、特に文学理論、評論の分野では、1956年から57年にかけての所謂「双百期」と呼ばれる時期に多くの注目すべき論説が公表されていることが確認されたので、次年度にそれらに関する研究成果を公表する予定である。
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