1999 Fiscal Year Annual Research Report
現代中国文学と「諷刺」に関する研究-小説創作と文学論を中心にした考察
Project/Area Number |
10610443
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Research Institution | EHIME UNIVERSITY |
Principal Investigator |
弓削 俊洋 愛媛大学, 法文学部, 助教授 (20200868)
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Keywords | 現代中国 / 諷刺(風刺) / 諷刺小説 / 諷刺文学論 / 馬識途 / 老舎 |
Research Abstract |
人民共和国建国後の中国では、「少しでも批判的で諷刺的ニュアンスを帯びたものは、全てよからぬ下心があるとみなされ」(劉賓雁)、過酷な弾圧を受ける、という状況が続いてきた。しかし、このような厳しい環境のなかにあっても、巧妙且つ辛辣な諷刺を行い、中国人のしたたかな批判精神を示す文学者や芸術家が存在する。本研究は、こうした作家の小説作品や文学論文などを対象にして、現代中国における諷刺の「諸相」を明らかにしようというものである。 このうち今年度は主に作家老舎(1899〜1966年)を対象にした研究を行い、論文「老舎の相声」(『愛媛大学法文学部論集人文学科編』6号)、「建国後の老舎に関する考察」(同前7号)などにおいて、その成果を公表してきた。 こうした研究において研究代表者は、複雑な歩みを見せた建国後の老舎が、諷刺文学の創作に多大な関心を寄せていた事実を明らかにした。周知のように建国後の老舎については、政府の政策や幹部を賛美する「歌徳派」としての道を歩んだという評価が定着している。しかし残された書簡や文章、講話を分析すると、映画や演劇への行政干渉に対する強い不満が表現されているなど、中国人伝統の批判精神を建国後においても失っていなかったのである。この点については前掲論文「建国後の老舎に関する考察」に詳しい。 また、諷刺に関する言説については、「百花斉放、百家争鳴」期において徹底した諷刺の必要性を強調していることが明らかになった。この点については、研究成果報告書収録の論文「文学理論における諷刺-老舎と諷刺」において、かれの言説の変遷を辿りながら、建国後の老舎の「諷刺文学論」についてその特徴と本質を論述している。 以上の老舎研究も含めて小説と理論に関する研究成果の全体は、研究成果報告書によって明らかにしている。
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[Publications] 弓削 俊洋: "老舎の相声"愛媛大学法文学部論集 人文学科編. 6号. 175-194 (1999)
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[Publications] 弓削 俊洋: "建国後の老舎に関する考察"愛媛大学法文学部論集 人文学科編. 7号. 89-108 (1999)
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[Publications] 弓削 俊洋: "現代中国の「諷刺芸術」"山陽放送学術文化財団『リポート』. 43号. 7-9 (1999)
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[Publications] 老舎を読む会 訳: "老舎幽黙(ユーモア)詩文集"叢文社. 499 (1999)