1999 Fiscal Year Annual Research Report
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10610452
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
境野 直樹 岩手大学, 教育学部, 助教授 (90187005)
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Keywords | 英国演劇 / 王政復古 / フェミニズム |
Research Abstract |
前年度に引き続き、近世英国演劇(王政復古まで)に頻出する、女性の表象に共存する聖母・娼婦の重層的な側面を、作品、作家、時代、劇場、劇団などをキーとして分類・整理した。演劇における聖と俗の対比は、娼婦というエロティシズムと貨幣経済に多重決定される身体を契機として、中世と近代を道徳的に峻別する手がかりとなりうるものであり、より具体的には、ロマンスの(あるいはローマ新喜劇の)もつ構造の破綻というかたちで顕在化する。聖母の価値はそれが性的誘惑の言説の外部にあることによって保証されるけれども、逆説的にその価値を下支えするのは、たとえどれほど巧みに母性の強調によって回避しようと試みても、不可避に表面化する性的対象としての女性性である。聖母は性を媒介とする流通の枠の外にあることを装いつつ、ロマンスに潜む男性主体的言説、すなわち「動かないことによって保証される女性の価値(聖母性)を、男性が自らのものとするために、ただ一度だけ動かす」という獲得の原理を告発するが、他方、ほかならぬその聖母すら、娼婦との相対的な定位から逃れることができない。娼婦と聖母は、互いの存在に依拠することで(つまり相互決定的に)自らの意味付けを行わざるをえない。換言すれば、男性主体的言説空間においては、聖母は娼婦に、娼婦は聖母に接近・転換することをあらかじめ求められているのであり、その遅延を常に告発されることで、それぞれのアイデンティティを外部から構成されているようにみえる。こうしたステレオタイプが、現代にいたるまでどのように浸透しているかを調べることが、最終年度の目標となるだろう。
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