1998 Fiscal Year Annual Research Report
英文学における環境文学批評の可能性-環境意識の形成と英国文学の自然観
Project/Area Number |
10610454
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大友 義勝 東北大学, 言語文化部, 教授 (60007333)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ロビンソン ピーター 東北大学, 文学部, 外国人教師
小澤 博 東北大学, 文学部, 教授 (70169291)
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Keywords | エコクリティシズム / 生態学 / 地球環境 / 自然破壊 / 自然観 / 散逸構造理論 / 想像力 / 文化的多様性 |
Research Abstract |
地球環境破壊の危機意識から、現在自然の捉え方と人間がこれまで自然に対し行って来た所業の見直しがなされつつあるが、本研究は、このような動きに呼応して、英文学におけるエコクリティシズム(環境文学研究)の可能性・有効性を追究するものである。 元々本研究の発案者であった石幡は、在外研究のため研究代表者を大友に交替せざるを得なくなったが、アメリカにあってASLEの日米英におけるnature writingのアンソロジーの編集と、Jonathan BateのRomantic Ecologyの翻訳に従事しながら、エコクリティシズムの可能性を探っている。石幡から研究代表者を交替した大友は、この研究計画を予定通り推進するために研究全体に目配りしつつ、必要な文献の選定と購入にあたると共に、先に西欧における自然観の変遷を辿り、デカルト的機械論的自然観を批判する形でロマン主義の生命を持った有機体としての自然、すなわち有機体的自然観が登場して来ることを明らかにしたが、このロマン主義の自然観が現代のイリヤ・プリゴジーヌの散逸構造理論に通じるものであることを確認した。小澤は、17世紀前半に発展した植物学に注目し、同時期のいわゆる形而上詩人たちの作品に科学技術と自然の相克を問題視するテーマが歌われていることを考察した。たとえば、Andrew Marvellの“To His Coy Mistress"には、植物の葉の気孔に言及したと思われる箇所があるが、1621年にオックスフォードに設けられた薬草園との関連を考慮すると、一篇の詩の細部に科学と自然と文学的想像力の興味深い出合いを読み解くことも可能である。また同じ詩人の宗教詩“The Mower Against Gardens"は、当時のチューリップ・ブームやサクランボの種無し種に言及しつつ、科学による品種改良と自然破壊の愚を歌いあげており、聖書的価値観とエコロジカルな発想の接点としても興味深い。ロビンソンは、地球上に存在する文化の永続する活力の素材として、詩人たちが文化的多様性と変化の維持に貢献する、その方法に興味を持ち、このテーマの下にニュージーランドの詩人Allen Curnowについて既に論文を一篇書いた。さらに、20世紀の詩、特にWallace Stevensの詩を研究し、生態学上の議論における種の多様性の類推として、文化的多様性という考えについてペーパーを書く予定である。 本研究は未開拓の研究分野に挑戦しており、初年度においては、研究の進め方においても暗中模索のところがあったが、次年度においては、現代におけるエコクリティシズムの可能性・有効性を探るという目的に向かって考察を収斂させて行き、本研究をまとめようと思っている。
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