1999 Fiscal Year Annual Research Report
両大戦間におけるイギリス文化ならびにヨーロッパ文化の社会思想史的考察
Project/Area Number |
10610461
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
鈴木 聡 東京外国語大学, 外国語学部, 助教授 (80154516)
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Keywords | 20世紀文化 / 第一次世界大戦 / モダニズム / ナショナリズム |
Research Abstract |
1.昨年度論じたような、20世紀初頭における知識人、一般大衆の心性に共通して影をおとしている、喪失という精神外傷的な経験について、方法論的により厳密に論じゆく可能性を模索した。 2.そのさい、伝統性という問題にいま少し注目すべきではないかという予感が生じつつある。モダニズム的美学がナショナリズム的政治学とじつは根源を同じくしているという見方もなりたつが、いずれにせよ、伝統と称される価値が近代的感性によってはじめて招来されたものにほかならないという逆説的状況こそ、今後、われわれが正面から取りあげてゆくべき課題であろうと思われる。 3.第一次世界大戦は、伝統主義的社会の崩壊をもたらしたと一義的にとらえるのではなく、逆に多様な形態の伝統主義(そのうちのいくつかが過去にたいして有している関係は少なからずいかがわしいものである)を誕生させる土壌となったと論じること。このように議論を方向づけることで、20世紀文化にかんし、じゅうらいいだかれていた観念そのものを抜本的に見なおす契機が得られるものと考えられる。 4.20世紀前半、文化は、いわゆる高級文化から大衆文化にいたるまであざやかな多層的区分を生じさせるにいたり、同時にそれらの各文化的圏域は、徐々に相対的自律性を確立しようとしていた。それとともに、情報伝達システムの発達という恩恵もあって、ひとつの圏域における関心事が変質を破りながら、ただちに他の圏域にあっても共有されるという、これまでになかったほどダイナミックな動きが見られるようになる。こうした過程においては、本来的に無根拠であった概念が、あたかも歴史的蓄積にささえられた実質的存在であるかのごとく錯覚されるという事態も往々にして起こりがちである。たとえば、近年、記憶をめぐってさかんに繰り広げられている喧しい議論のなかにも、20世紀文化をめぐる以上のような認識が取り入れられるべきであろう。
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