1998 Fiscal Year Annual Research Report
『失楽園』における虚の無限と隠蔽された強度:有機的表象と遊牧的表象の思想史
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10610468
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 繁夫 名古屋大学, 言語文化部, 助教授 (50162946)
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Keywords | ミルトン / 『失楽園』 / 無限 / 強度 |
Research Abstract |
1第一の研究目的にたいしては、無限のあり方を二極化して考える以前に、無限への正反対の価値観がまずあることがわかった。古代ギリシアからカントールまでの<無限>の観念史を追うことによって、研究当初に想定していた<実・無限>と<無・無限>という二分法は、ネオ・プラトニストやキリスト教神秘家などに見られる希有な見方であることが判明した。そしてむしろ、ある対象に<無限>が現出していることが不完全・悪か完全・善という正反対の価値付けが、哲学者・文学者の第一義的関心事であることが認められた。『失楽園』および『キリスト教教義論』における宇宙像・自然像に関する部分を翻訳・カード化することによって、ミルトンの関心もこの価値付けにあることがわかった。2第二の研究目的については、無限が存在の深部に実在し、存在の表面にはあらわれないという一般的な考え方があり、それに加えて、深部に実在する<無限>を見るには、非日常的な意識の機能が働いて意識の根本的転換が必要だという道筋がつけられた。根本的転換には、(1)身体修行により起る場合、(2)儀礼・錯乱によって根源的イマージュ世界で生起する場合、(3)理知を行使して起る場合の三つに分類できることがわかった。『失楽園』は(3)に属することが、翻訳・カード化によってはっきりした。第一目的とのからみで、無限の二分法はこの詩人の意識の射程外であることがほぼ確信できた。3第三の目的に関しては、無限の恩寵・聖霊をこの詩が狭い枠に馴致したことは、<直和性>(集合観念であり、かつ経済学用語。ある対象とそれに対応するものとがl:l対応であること)にミルトンが暗黙のうちに固執することから起っていることが、わかってきた。<直和性>にこだわるかぎり、聖霊を通じた神の無限の恩寵(<強度>)は、紋切り型の教義などで安易に表象化し飼い慣らす限定された<実・無限>に貶められしまうという、経路が見えてきた。
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