1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10610471
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉田 純子 広島大学, 総合科学部, 教授 (30253024)
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Keywords | アメリカ文学 / 児童文学 / 男性性 |
Research Abstract |
まず、「グリム童話の変容とアメリカ文化」では、グリム童話翻案とアメリカ人の男性性について考察した。Walt Disneyは、経済不況下のアメリカで映画『白雪姫と七人の小人』(1938年)を制作・発表したが、グリム版「白雪姫」では周縁的存在だった小人に勤勉に勤勉な労働者の性格を与え、より多くの場面に登場させることで、不況で覇気をなくした男性や共和国アメリカの「男性性」に活気を与えるメッセージを込めた。また、白馬の王子を物語りの最初と最後に登場させ、王子の物語の枠組みを設けることで、男の物語へとパラダイム・シフトした。80〜90年代にかけて、自信喪失に陥ったアメリカ人男性は、再びグリム童話により気力の回復を図ろうとした。詩人で男性運動の指導者Robert Blyがグリム童話「鉄のハンス」に基づき、男性向けの啓蒙書『アイアン・ジョンの魂』(1990年)を発表した。この本は、フェミニズムや革新的思想に対する反撃の潮流のなかで、男性性に不安をもつ多くの男性の読者を得た。 さらに、黒人の児童文学作家Walter Dean MyersのScorpionsを取り上げ、都市中心部のハーレムで育つ黒人少年とギャング団との関係が、男性性をめぐっていかに表現されているかを分析した。社会学者は、若年の黒人男性が「絶滅の危機に瀕した種」であり、スラム街の「貧困の文化」により破滅的な人生を歩まざるを得ない状況に陥れられてきたと主張する。アカデミズムやジャーナリズムにより喧伝された「危険で劣等な黒人男性」という類型的な黒人男性像がアメリカ社会で流布する現実のなかで、マイヤーズは、劣悪な環境のなかで苦闘しながら自らの男性性を模索する少年に「声」を与え同情的に描く。アメリカの物語に共通する少年の「無垢」の喪失のモチーフはこの作品にもみられるが、人種的他者のそれは、白人の主人公の場合とは違った意味をもつ。
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Research Products
(2 results)