1999 Fiscal Year Annual Research Report
二十世紀への転換期における知の動向の批評家としてのヘルマン・バール研究
Project/Area Number |
10610498
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
西村 雅樹 広島大学, 総合科学部, 教授 (60036431)
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Research Abstract |
今年度はバールと日本の関係について考察を進めた。 19世紀末から20世紀初頭にかけてのいわゆる世紀末ウィーン文化の代表的な批評家へルマン・バールは,変動する時代を先取りするかのように新しい主義・主張を紹介,主導し自らも変転を重ねた。しかし1910年頃,彼はモデルネの芸術運動の指導者たる立場を捨ててカトリックに回帰し自ら時代の先頭に立つことはなくなった。この転換期に著された一連の評論に見られる思想的関心は,生の拠り所を求めての探究とみなせる。しかし転換期以前に著された著作の中にもすでに同様の傾向は読み取れる。なかでも日本への関心が示された著作においてそれは顕著である。 1900年に催された分離派の日本美術特集展への批評『日本展』には,西洋とは異なる自然観や人間観を持つ日本文化の特質を鋭く捉えた論評が見られる。また1903年に発表された戯曲"Der Meister"では,日本人の登場人物がドイツ神秘主義を理解しうる人物として描かれている。これらの作品で示された日本への関心は,転換期に著された評論集に見られる「無」の精神性への強い関心につながるものとみなせる。そしてそれは,バールその人のみならず当時広く見られた西洋近代精神への懐疑と批判に基づいていると言えよう。
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