1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10610535
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉武 純夫 名古屋大学, 文学部, 助教授 (70254729)
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Keywords | 死の受容 / カロス・タナトス / 自殺 / アンティゴネ / ソポクレス |
Research Abstract |
1.女性と死の近接性、女性の首吊り自殺への似つかわしさについて調査した昨年度の成果をもとに、今年度は劇「アンティゴネ」の分析を行った。命をかけて兄の埋葬を試みて死を受容した主人公は実際にいかなる死を死んだのかということが焦点である。 2.この問題を論じた研究はきわめて貧しかったが、一般的にアンティゴネの死は英雄的なものとして肯定的に受け取られてきた。ひとりN.lorauxは、アンティゴネの死がアウトケイル(手ずからの)でない自殺とされていることと、その自殺が首吊りというモードによったものであることの2点から、アンティゴネは惨めな死を死んだと唱えている。(日本にまったく紹介されていなかったその論文は、8月に私が翻訳して雑誌に発表した。)私も同じ結論を支持するが、lorauxの論拠には不足があると考え、まったく違う観点からの論証を試みた。 3.アンティゴネは最初、投石刑により処刑されることを前提として死を受容した。その時点で彼女は自分の死をカロス・タナトス(美しい死)として認識している。しかし逮捕後、彼女に科される刑は変更され、地下幽閉の身となる。その状況の中で、餓死することを避けて首吊りによって得た死は、カロス・タナトスとは程遠いものである。なぜなら、戦死をカロス・タナトスと見做し餓死をその対極と見做したギリシアの伝統に照らせば、彼女は戦死に擬せられる投石刑死を奪われたのであって、彼女は首吊りによってかろうじて餓死を逃れたに過ぎないからである。この論文は3月中に完成する予定である。 4.これらの考察を通して、カロス・タナトスとは何かを改めて問い直し、またlorauxの首吊り論を批判したという点が、この間の研究の重要な成果であろう。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 吉武純夫: "アンティゴネの手(N.Loraux, 'la main d'Antigone'の翻訳)"現代思想. 27巻9号. 130-160 (1999)
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[Publications] 吉武純夫: "アキレウスの賞品供与(パトロクロスのための葬礼競技における)"名古屋大学文学部研究論集. 131(文学45). 45-60 (1999)