1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10620040
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
伊藤 昌司 九州大学, 法学部, 教授 (00047151)
|
Keywords | ボアソナード / 遺言 / 遺贈 / 相続 |
Research Abstract |
わが国の現行相続法規定の基を為す19世紀フランスの法律学は、フランス民法典が編纂される前の時代に、当時の普通法ともいうべきパリ慣習法についての体系的研究が行なわれるなかで準備された。そのような慣習法曹のうち、PothierやBourjonの名は誰もが知っているけれども、このBourjonが最も高く評価したパリ慣習法の体系的研究者こそが、本年の研究費で首尾よく購入することができたTraites des successions,1743.の著者:Denis LEBRUN(Le BRUNと表記されることもある)である。この書物は、たんに本研究のためのみならず、今後の多くの相続法研究者のために長く役立つことは間違いない。 次に、研究費により国内の専門家(東京大学名誉教授・稲本洋之助氏)を招き、大学院学生を交えて、遺留分法と相続分法をテーマとするセミナーを開催した。現明海大学教授の稲本氏は、フランス革命期を扱った不朽の名著「近代相続法の研究」 (1968)の著者であり、フランス近・現代の相続法に通じた第一人者である。氏の謦咳に触れ、伊藤とその指導下にある学生が上記の分野の問題点を取り上げて報告し討論した有意義なセミナーであった。上記の大学院学生がいずれ発表する論文は、その副産物である。 伊藤の日常的研究は、本研究費による研究と不即不離の関係にあり、その一部分が上記のセミナーの報告にもなったが、1998年10月に刊行された「民法典の百年」I〜IVのなかに伊藤が執筆した論文(vol.IV,pp.367〜410「民法一〇二九条・一〇三〇条(遺留分の算定)」)は、フランス民法典とフランス相続法学上のrapportなる言葉が「持戻し」という言葉に翻訳されてわが国の相続法学に移入され、その移入過程において概念の混同が行なわれたことを指摘したものである。本研究費を与えられた研究テーマの一部を為す研究業績である。 その他、本研究費を申請した段階では、日本相続法についてのBoissonadeの具体的な見解を知る資料はないものと誤解していたが、本研究費による研究を進める過程で、彼が残したProjet第2版中に特定遺贈に関する草案と注釈があることを発見した。この部分の紹介は、わが国にはないので、とりあえず全訳し、いつでも公表できるかたちにはしているが、1890年の民法典(いわゆる旧民法)の規定との照合をする仕事は、これからであり、翻訳を生のまま公表するようなことはしたくない。
|