1999 Fiscal Year Annual Research Report
英米法における営業制限法理の研究とわが国における競業避止義務法理の構築
Project/Area Number |
10620052
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
石橋 洋 熊本大学, 法学部, 教授 (70176220)
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Keywords | 営業制限 / 競業避止義務 |
Research Abstract |
1.英米法上の営業制限法理において、雇用契約上の営業制限特約の合理性は、まず競業避止義務によって保護される正当な利益の存在が使用者によって立証されなければならない。営業秘密及び顧客との取引関係のような使用者の財産上の利益が正当な利益であること、他方、被用者が在職中に修得した技術、知識、能力が正当な利益たりえないことは判例法上確立したところである。とはいえ、近年、両者の区分が難しい事例が登場してきていることは、平成10年度の研究によって得た知見であった。さらに、最近の判例では、従来、使用者の正当な利益と考えられてこなかった「安定し、訓練された労働力の維持」が、使用者の正当な利益たりうるとする判例が登場し、一つの流れとなりつつあるという知見を得ることができた。そこで、使用者間の従業員引抜き禁止協定と元従業員による元同僚の引抜き禁止協定を素材として、従業員の引抜き禁止協定の効力をめぐる論文を執筆中である。 2.英米の20世紀における営業制限法理では、営業制限特約を商契約上締結されたものと、雇用契約上締結されたものとを区分し、雇用契約上の営業制限特約の合理性審査は商契約上のそれよりも厳格になされる必要があるとされ、その主たる論拠は交渉力の不均衡に求められていた。しかし、近年の営業制限特約のなかには、商契約のそれか、雇用契約のそれかを明確に分類しえない判例がみられるようになってきている。そうした判例では、営業制限特約の合理性審査は、特約の形式ではなく、実質によって判断されるぺきであるとの態度が採られているとの知見を得ることができた。こうした流れは、今後の営業制限法理にどのような影響を及ぼすことになるのか、来年度の研究課題となる。
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