1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10620057
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊東 研祐 名古屋大学, 法学部, 教授 (00107492)
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Keywords | 医事刑法 / 自己決定権 / 人格権 / 生命倫理 |
Research Abstract |
本研究は、研究代表者が単独で実施し、平成10年度及び11年度の2年間で完了することが予定されているが、平成10年度は、臓器移植を含む末期医療・生殖医療に関わる従前の我が国医事法関連文献を再度批判的に検討し、現在の医事刑法理論学の視座・枠組の特質ないし問題点を具体的に明らかにすることに費やされた。その焦点は、我が国の医学・哲学・倫理学・経済学・文化人類学・歴史学等々における議論の視座との齟齬及びその原因の解析ということにおかれた。また、その齟齬の解消の可否、可能であるとすれば、その方法につき検討すべく、ドイツ・アメリカ合衆国・イギリス・オーストラリア等を対象とする比較法的研究の為の資料収集・分析も行った。いずれの作業も膨大なものであって、なお明確な結論を得る段階に至ってはいないが、現在の議論の基本的視座を支える思考自体が実は必ずしも確固たる根拠付けを有していないのではないか、という当初からの疑念は確認されたように思われる。即ち、一方で、自己及び他者の身体に関する処分権能についての法的諸観念(例えば、人間の尊厳、自己決定権、人格権等々)の内実は未だ煮詰められたものではないし、そもそも医事刑法領域における妥当力を有するものであることの論証は為されていない。他方、医学・生命倫理学・宗教学等における議論は、例えば、身体の部分(臓器等)というものは“事物の本性"として他者への移転が予定されていないものと信じる、というように謂わば極めて感性的な側面を有する場合が多く、傾聴すべき問題提起は含まれるものの、法的議論への導入に際しては相当な翻訳が要求されるといわざるを得ない。議論のジャーナリスティックな色彩も濃厚である。平成11年度は、まずは、上述の法的諸観念の再構成を、比較法的知見を加味しつつ、且つ、感性的な障害の克服を図りつつ、試み、可能ならば、その妥当性をアンケート等で検証する予定である。
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