1999 Fiscal Year Annual Research Report
チリ軍の政治化と民主主義の崩壊 (1964〜1973年)
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10620079
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大串 和雄 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (90211101)
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Keywords | チリ / クーデター / 政軍関係 |
Research Abstract |
今年度は、文献資料の渉猟を通じて、アジェンデ政権下のチリ軍人の認識について以下のような知見が得られた。 アジェンデ政権に対するチリ軍将校の認識は決して一様ではなかった。若干の将校はアジェンデ政権の意図や政策に親近感を感じていた。しかし多くの将校は、さまざまな懸念を持った。懸念の第一は、アジェンデ政権がマルクス主義であるという点にある。冷戦下で反共意識が染み付いたチリ軍将校にとって、マルクス主義であることはそれ自体敵意をいだくに充分な理由であった。第二に、アジェンデ政権下でチリ社会が極度に分極化し、一部では左翼政党傘下の労働者が右翼クーデターに備えて軍事訓練を始め、他方では中・上層の住宅地において下層民の襲撃に備えて武装と軍事訓練を始めるなど、一触即発の雰囲気が醸成されていった。第三に、政治的混乱と資本家階級の政権不信の中で、1973年にはチリ経済は麻痺状態に陥った。第四に、アジェンデ政権よりも急進的な左翼のテロ活動が少数ではあるが現れ始めた。以上のことはすべて、チリが内戦に向かって突き進んでおり、それを通じて国際共産主義がチリを乗っ取ろうとしているというチリ軍人の信念を強めた。そして1973年には、もはや事態をこれ以上放置できないと考えるに至ったのである。
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