2001 Fiscal Year Annual Research Report
イギリスにおける救貧法論争と福祉国家の成立に対する経済思想の影響の研究
Project/Area Number |
10630004
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡会 勝義 早稲田大学, 政治経済学部, 教授 (80097196)
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Keywords | 救貧法 / 古典派経済学 / ベンサム / マルサス / リカードウ / 貧困 |
Research Abstract |
2001年にはMichael Quinnの手によってベンサムの救貧法関連草稿の一部(約半分)が編集・出版された(Writings on the Poor Laws, Volume I, Clarendon Press, Oxford, 2001)。これを研究することにより、昨年度に引き続きベンサムの救貧法改正論を検討した。またマルサスについても研究を継続し、特に労働者階級の幸福の増進に最適な経済のあり方として、農業中心の経済から農業と製造業が適当なバランスをもって存在する農工並存経済を考えるようになり、そうした経済を実現するためにある程度の農業保護を主張するようになった次第を明らかにした。今年度のもっとも重要な検討課題は、マルサスやリカードウの救貧法の影響の分析と救貧法廃止論を批判したコプルストンEdward Coplestonの貧困問題についての論考を研究し、マルサスやリカードウの議論と対比することであった。コプルストンは、1819年に2つのピール首相宛の公開書簡を発表し、その中で救貧法には貧困を増大するような本来的傾向はなく、また貧困が傾向的の増加してきたともいえず、貧困が一時的に増加することはあったがそれは一時的な原因によるものであり、それらの原因として最も重要なのは貨幣価値の低下であったと主張する。貨幣価値の急速な低下があったとき、必需品の価格は速やかに上昇するのに対して貨幣賃金の上昇は遅れるため、労働者の境遇の悪化が生ずるが、その悪化が修正されるまでには時間がかかる。これが、歴史的に見た場合、貧困が増大した時期に生じていた現象であって、マルサスなどの救貧法廃止論者が主張するように救貧法が貧困増大の原因であったということはできない、というのがコプルストンの主張である。そしてコプルストンは、そうした貧困の原因を人為的にさらに悪化させないようにすることが重要であり、救貧法は改善することは必要であっても廃止する必要はないという。このコプルストンの議論を、マルサスとリカードウの議論と対比し、彼らに対する影響を検討した。
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