1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10630008
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
久我 清 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (50029914)
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Keywords | 不均衡 / 倒産 / 清算 / 動学 / 株式 / 債権 / 成長 / 契約 |
Research Abstract |
上場企業や都市銀行の倒産が多発し,不良債権問題は焦眉の急となっている。ほぼ10年にわたる不況と大型倒産の流れのなかで,現代経済学は,倒産や不良債権処理のメカニズムを内挿していない。元来,一般均衡理論は,その理論構成上,各経済主体の経済計画のバランスを解明する構造となっているので,計画の崩壊に位置する事象を分析の対象とすることには適していない。このような難点を克服するため,論文「不均衡動学の経済表」ISER Discussion Paper No.469(北海道大学『経済学研究』第48巻第4号 99年3月)は,一般(不)均衡理論が倒産や不良債権処理に関連する諸現象の構造的側面を内挿してモデル化した。不均衡問題との関連では,利潤率均等化論に関する置塩コンファレンスが1998年9月に国際高等研究所にて開催された。このコンファレンスは森嶋通夫教授を主催者として,置塩信雄教授を論文発表者として多くの研究者を集めて開催されたが,久我は集会の運営・研究連絡に当たった。その意見交換が今後の研究に大きな影響を与えることは疑いがない。マクロ動学の焦点は,貯蓄投資のアンバランスが実物資本形成にどのように結実するかという回路解析にある。その際,新資本財需要について加速度原理を重視する場合と期待利潤率の部門間格差で考察する場合などのアプローチの違いが如何なる影響を及ぼすかということを明らかにする準備として,標準的な宇沢型二部門経済成長モデルを資本財が製造法人によって所有されていて,家計は株式のみを所有するというモデルに変容させることに着手した。家計が資本財を所有し,それを製造セクターに賃貸するという現在の標準的な二部門経済構造は,資本ストックの移動を最も効率の高い形態で利用していることに通じる一方で,製造法人側の設備投資関数の導入を拒否する構造にもなっている。製造法人セクターを資本財所有者・投資者として把握し,また新資本財需要について加速度原理を導入して,二部門経済成長モデルを展開することが可能となるものと思われる。この研究テーマは置塩コンファレンスにおける討論の延長上で展開されている。論文「不均衡動学の経済表」の研究に併せて,上記の新展開モデルのモンテカルロ実験を準備中であるが,およそあと半年ほどのあいだで終了させたあと,製造セクターの設備投資を支える金融構造を問う研究を進める予定である。これらの諸問題を含めて,一時的均衡から不均衡二部門経済成長モデルに昇華させることがこれからの本研究の課題である。旧来の価格メカニズムとの差違・資本主義経済の機能と限界の解明を指向するとともに,マクロ動学・不均衡ミクロの理論・不均衡理論の動学的把握から,日本経済の再生条件を探る方向に研究を展開したい。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 久我 清: "不均衡動学の経済表" 北海道大学『経済学研究』. 48巻4号. 23-40 (1999)
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[Publications] 入谷純・久我清: "『数理経済学入門』" 有斐閣, 370 (1999)