2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10630083
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中野 忠 早稲田大学, 社会科学部, 教授 (90090208)
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Keywords | ロンドン / 財政 / 王政復古期 / 孤児財産 / 大火 / 内乱 / 東インド会社 |
Research Abstract |
最終年度として、今年度はこれまで解読してきた史料を整理・編集するとともに、17世紀全般にわたるロンドン市の財政状況の分析にとりかかった。史料に関しては、前年度よりの作業を引き継いで、もっとも基本的な原史料である会計簿City's Cashを、1643/4年度の1年度分に関してマイクロフィルムから完全なかたちで転写し、表計算ソフトに打ち込んだ。また会計簿作成のために日常的な現金の出し入れを記録した現金出納帳Cash Bookも、王政復古期の1年度分(1670/71年)について、同様な作業を完了した。この時代のロンドン史および財政史研究にとってきわめて有益なこれらの成果は、研究成果報告(冊子体)の一部として、史料集のかたちで公開する予定である。 これらの史料および他の関連史料をもとに、本年度は、財政関連史料の内容の紹介と分析、および17世紀ロンドン市の財政状態の分析を進めた。ロンドン財政はジェイムズ一世の時代より急速に拡大する。それにはロンドンの急激な都市化にともなう都市経営のコスト増大という側面もあったが、より直接的な要因は、財政資金の管理運用にあたるロンドン市金庫が、東インド会社、アイルランド植民などの海外大企業への資金を融資する一種の投資銀行として機能していたこと、および貸付や軍事・治安などの費用負担を通じて王権との繋がりを強めたことにあった。内乱期の軍事・防衛費用の増大は、ロンドン財政の赤字を増大させる。内乱の終結および王権と断絶により、50年代後半には財政状態は改善されるが、王政復古以後、また悪化をたどる。その決定的契機となったのは、1666年の大火である。ロンドンにはその被害から自力で立ち直るだけの財政基盤がなかった。そのため、財源としての孤児財産への依存はさらに高まるとともに、石炭税などの新税が導入される。ロンドン財政は70年代末には実質上破産し、財政史的な意味で中世都市ロンドンは終焉を迎える。
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