Research Abstract |
時刻tにおける集団の大きさをN(t)=N(t,ω_1)とする(2N(t,ω_1)遺伝子)。ここで、{N(t,ω_1)}_<t=0,1,2,…>は{N_1,N_2}を状態空間とし、推移確率が以下で与えられるマルコフ連鎖とする(1<N_1<N_2)。 P(N(t+1,ω_1)≠N(t,ω_1)|N(t,ω_1)=N_j)=q_j P(N(t+1,ω_1)=N(t,ω_1)|N(t,ω_1)=N_j)=1-q_j 2つの対立遺伝子A_1とA_2を考え、Z(t,ω_1,ω_2)を時刻tにおけるA_1遺伝子の個数とする。{N(t,ω_1)}_<t=0,1,2,…>が与えられたとき、確率法則が P_<ω1>(Z(t+1,ω_1,ω_2)=j|Z(t,ω_1,ω_2)=i)=(2N(t+1,ω_1)j)(i/(2N(t,ω_1)))^j(1-i/(2N(t,ω_1)))^<2N(t+1,ω_1)-j> 0【less than or equal】i【less than or equal】2N(t,ω_1),0【less than or equal】j【less than or equal】2N(t+1,ω_1) で与えられるランダムな環境下のマルコフ連鎖{Z(t,ω_1,ω_2)}_<t=0,1,2,…>を個体数の確率的変動を伴うWright-Fisherモデルという。 集団遺伝学の確率モデルの解析においては、有効個体数(effective size)という概念が重要な役割を担っている。上述のモデルに対して、2つの有効個体数variance effective size N^<(v)>_eとinbreeding effective size N^<(i)>_eを定義することができる。本研究では、個体数の確率的変動を伴うWright-Fisherモデルに対して以下の性質を明らかにした。 1.variance effective sizeとinbreeding effective sizeは一致する(N_e=N^<(v)>_e=N^<(i)>_e)。 2.有効個体数N_eの具体的な表現を求めた。 3.個体数の確率的変動が正(負)のautocorrelationを持つとき、有効個体数N_eはN_1とN_2の調和平均N_Hより大きく(小さく)、uncorrelatedのときに限り両者は一致する(N_e=N_H)。 4.有効個体数のq_1,q_2依存性を明らかにした。 5.q_1,q_2→0またはN_1,N_2→∞なる場合の、有効個体数N_eの漸近的表現を求めた。 また、関連した問題として、集団の遺伝的多様性の尺度である平均heterozygosityに着目し、個体数が確率的に変動する場合に、この量がみたす拡散方程式(拡散モデル)に関する解析も行った。
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