1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10640366
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
戸田 幹人 京都大学, 大学院・理学研究科, 助手 (70197896)
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Keywords | 対称性 / カオス / 化学反応 / 非線形共鳴 / アーノルド拡散 / 振動励起 / 少数多体系 |
Research Abstract |
分子をはじめとする少数多体量子系のダイナミックスにおいては、系の対称性が重要な役割を演じる可能性がある。しかし、カオスにおける量子古典対応に対する、系の対称性の効果を、具体的な系を対象に調べた例は無い。本研究では、このような動機に基付いて、具体的な分子を対象に、対称性がカオスに及ぼし得る影響を調べた。アセチレンを選んだ理由は次の三点である。第一に、アセチレンが基底状態で直線分子であり、高い対称性を持っていることから、カオスと対称性の関連を研究する系として適していることである。第二に、高励起振動状態において、アセチレンからビニリデンへの構造変化が起こることが予想されているが、この構造変化が対称性の変化を伴っており、対称性のダイナミカルな変化とカオスの関連を調べられる可能性があることである。第三に、これが最も重要な理由であるが、アセチレンに対して、高励起振動状態における分光学的な研究が盛んに行なわれ、実験データの集積があることである。 具体的な解析は次のように行なった。アセチレンは7自由度系であり、低次元カオスの研究におけるように、ポアンカレ断面を取る等の方法は使えない。ここでは、分光学的なデータに基付いて構成された実効ハミルトニアンを出発点に、振動モード間で非線形共鳴が起こる場所の分布を、状態空間上で調べた。この分布を、系の対称性を考慮しない場合と考慮した場合とで比較した結果、系の対称性のために、多くの非線形共鳴が禁止され、系が非エルゴード的であることが分かった。系の対称性の変化とカオスの関係、非エルゴード的な相空間上でのアーノルド拡散における量子古典対応については、今後の課題である。
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