2000 Fiscal Year Annual Research Report
水生生物の卵サイズと初期生活史の進化に関する数理生物学的研究
Project/Area Number |
10640607
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Research Institution | HOKKAIDO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
西村 欣也 北海道大学, 水産科学研究科, 助教授 (30222186)
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Keywords | 生活史 / 共食い / 生き残りゲーム / 餌利用 / 暴力の蔓延 |
Research Abstract |
多くの水生生物において、発生初期過程に共食いが生じることが知られている。同種同一年齢個体間の共食いの進化ダイナミクスに関する研究を行った。共食いは、同一種内個体を餌として利用するので、餌選択性の進化としての側面がある一方、遭遇個体間の生き残りゲームとしての側面を持つ。共食いが生じる進化過程の初期状況を想定すると、攻撃的な個体が同種を容易に食するための形態・行動特性は有していないと考えられる。その場合、餌選択の面から共食いが自然選択上有利に働く形質にならない。 同種を利用しない効率的な餌利用は、個体の成長に有利に働く。一方、同種の餌としての有用性に関わらず、同種に遭遇した時に共食いをする行動は、生存上有利となる。これらのメカニズム考慮し、単純な生活史モデル考案し、共食い形質の進化動態を調べた。 モデル解析によって以下のことがわかった。(1)餌利用性の予測に従い、貧栄養環境において、共食いはより進化しやすくなる。(2)共食いの進化は、集団を構成する個体の共食性の程度に依存する。集団を構成する個体の共食性が低い場合、共食いの攻撃性は集団内で沈静化し、集団は非共食いへ進化安定する。(3)集団内で共食い個体と非共食い個体が混在する二型平衡は、進化的に不安定であり、進化の結末はどちらかのタイプが集団を占めることになる。 連続な形質変異を仮定したモデルから、進化的結末が非共食い・共食いどちらの場合も、進化過程では、共食い傾向が徐々にエスカレートする。進化的結末が非共食いの場合、共食い傾向のエスカレーションがやがてとまり、突然非共食いが急速に進化する。これは社会における暴力の蔓延・沈静の時間動態を比喩的に示唆した結論である。
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