Research Abstract |
近年,先端的な科学技術において,従来ないような高い熱流束で短時間に高速加熱を行う熱流体の問題が重要になっている.たとえば,蒸気爆発,超伝導破壊,中性子発生用ターゲットなどにおける現象である.これまでの熱工学,伝熱工学の体系が扱いうるのはマイクロ秒オーダまでであり,こうしたナノ秒あるいはそれ以上の高速熱流体現象は未知の新しい学問領域と言える.本研究は,最新のレーザ加熱技術を用いて,特に水中で物体面を急速加熱し,そのときに生じる熱的,流体力学的現象について実験的,理論的に研究したものである.具体的に言えば,水中で先ず固体金属面(銅,シリコン)を加熱,次に液体金属面(水銀)を加熱し,超高速度写真技術(イメコン,最高2000万コマ/秒)によって現象を観察すると共に,電気抵抗法あるいはレーザ反射法によって,加熱面の温度変化を測定し,またピエゾセンサーを用いて発生圧力を測定した.さらに,比較検討のため,これらの実験を,空中においても行った.こうした実験の結果,ナノ秒加熱における現象では,衝撃波の発生が特色であり,この高い圧力の発生は急速な相変化,および液体の圧縮性によってもたらされるものであることが判明した. また,現象観察と加熱面の温度計測から,相変化は加熱面の表面温度が液体の均質核生成温度となった時に生じるらしいことが見いだされた.そこで,加熱開始から加熱面の温度が均質核生成温度となるまでの間に液体に蓄積された熱エネルギーが,相変化とともに一気に解放されるとして理論モデルを構築し,実験と比較検討した.その結果,理論結果は固体金属加熱時に測定された圧力を良く説明することがわかった.しかし,液体金属の場合,発生する圧力は固体金属の場合に比べはるかに高い.このことは,加熱面の表面変形と流動性が発生圧力に深く関わることを示している.なお,伝熱機構に関しては,この程度の加熱速度ではまだ非フーリエ効果は重要とならないとの結果を得ている.
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