Research Abstract |
本研究の目的は,農山村地域の振興方策として期待が高まっているグリーンツーリズム(以下,GTと略す)の効果と可能性を明らかにすることである。本年度は,昨年度に引き続きGTの実践事例の分析によりGTの具体的効果を検討するとともに,GTの効果について総合的な考察を行った。北海道黒松内町では,「ブナの里の町づくり」を掲げて自然体験型観光をいち早く打ち出し,町内外の意見を巧みに取り入れながら施設整備や体験プログラム開発を行ってきた結果,たんに観光客の増加のみならず,ブナの里の全国的知名度の獲得とそれによる町づくりへの自信,町内外の幅広い人的ネットワークの形成などの効果がもたらされた。一方,北海道美瑛町では,ヨーロッパ的な畑地景観による観光的成功の陰で,観光客の増大による農業への支障,農業を維持するための畑地改良と景観保全との矛盾といった問題が生じている。これらの事例と,昨年度の岩手県湯田町,岩手県遠野市,群馬県新治村の事例調査を踏まえて,GTの効果を整理すれば次の通りである。(1)GT施設の収益性は高くないが,GTに関わった個人の小遣い稼ぎ的な効果が意外に大きい,(2)地域内外の人的ネットワークの形成を通じて地域の企画力や実践力が高まっている,(3)自分たちの活動への自信,地域への愛着や誇りが生まれている,(4)地域の自然的文化的環境の見直しと修復に結びついている。その一方で,来訪客の増加は,一般観光地化をもたらし,GTの長所を損ないかねないことも明らかになった。以上,GTは,その方向を誤らなければ,有形無形の社会資本整備(環境保全,施設整備,人的ネットワーク,住民参加・合意形成)への寄与が大きく,農山村地域の振興策として大きな可能性を有していると結論できる。
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