Research Abstract |
てんかん患者にみられる精神病の成因を明らかにするために,臨床情報をもれなく記載する新たな多軸診断表を作成し,多施設において調査した.5施設より128例が集積され,男性63例,女性65例,平均年齢39.9±12.8歳,てんかん発病平均年齢13.5±9.8歳,精神病発病平均年齢27.9±9.5歳であった.精神病類型は妄想型分裂病様障害52例,妄想性障害24例,急性一過性精神病性障害22例,破瓜型分裂病様障害13例,緊張病性障害9例,幻覚症7例と改めてその多様性が確認された.側頭葉てんかんが61例と最も多いが,非側頭葉てんかんや全般てんかんと比べ,精神病類型に特徴はみられなかった.神経生理学的所見については,精神病発症時の脳波変化をみると正常化例が8例,悪化例が4例といずれも少なく,いわゆる強制正常化は比較的まれな現象と考えられた.脳波によるてんかん焦点の側性にも左右差はなく,側頭葉てんかんに限っても左側22例,右側22例,両側13例であった.妄想型分裂病様障害や慢性経過例に左側焦点が多いという結果も得られなかった.脳形態学的所見については,画像検査で異常が確認された例は49例であったが,その内容は脳全般性萎縮,片側海馬萎縮,脳局在性萎縮,腫瘍性病変,皮質形成異常など多彩であった.側頭葉てんかんにおける片側海馬萎縮は11例とさほど多くなかった.これらの脳形態異常の原因を示唆する既往症は34例で確認できたが,脳炎,出産時障害,脳挫傷,乳幼児期のけいれん重積,腫瘍性病変手術後,脳血管障害とこれも多彩であった.てんかん性精神病例に脳障害が多いことを示唆する所見として,軽度精神遅滞が38例,中等度精神遅滞が12例みられた.クラスター分析の結果,精神病発病時に発作頻度が減少し脳波が正常化する例は,発作間欠期精神病の亜型に過ぎず,精神病発病時に発作頻度が増加し脳波が増悪する例は,発作間欠期精神病と発作後精神病の中間に位置する亜型であると考えられた.これらの結果より,てんかん精神病の成因は,てんかん病態が変化して脳波所見や臨床発作の消長に反映する群や,脳形態変化を伴って器質性精神病状態を呈する群も存在するが,薬物的要因,性格的要因,心理環境的要因などが関連する多因子と考えられた.今回の検討で改めててんかん精神病の異種性が明らかとなり,その成因研究にはてんかN精神病の妥当な亜型分類が必須と思われた.
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