Research Abstract |
陽圧呼吸では,頭蓋内圧(Intracranial pressure:ICP)は吸気時に上昇し呼気時に下降する呼吸性変動が見られる.そこで,吸気時間を延長させ呼気時間を短縮し吸気呼気相比(I:E)が逆転する人工呼吸法Inverse Ratio Ventilation(IRV)が,ICPにどのような影響を与えるかを雑種成犬を用いて実験した.体位は腹臥位で,頭部を軽度挙上させ定位脳固定装置に固定した.I:Eは1:2から1.7:1,2.3:1,4:1まで吸気時間を延長させ,吸気流速波形は矩形波(矩形波群,n=10)と漸増波(漸増波群,n=10)の二種類を用い,流速波形の膨響も検討した.ICP,最高気道内圧,平均気道内圧,平均動脈圧,平均肺動脈圧,中心静脈圧,心拍出量をI:E変更30分後に測定した.ICPの変化は,I:E=1:2,1.7:1,2.3:1,4:1でそれぞれ矩形波群が12.7±3.1,12.4±4.6,12.3±3.3,14.4±3.5cmH_2O(mean ± SD),漸増波群が12.0±6.6,14:O±6.0,12.0±6.3,13.8±2.8cmH_2Oであった.両群ともICPは各I:E間で有意差なく,また両流速波形間でも有意差を認めなかった.次に,人工脳脊髄液の持続注入によりICPを上昇させたイヌ(頭蓋内圧亢進群,n=10)を用いて同様に検討した.ICPはI:E=1:2,1.7:1,2.3:1,4:1でそれぞれ29.4±7.0,28.6±7.0,28.1±7.1,27,0±6.2cmH_2Oと有意の変化を認めず,吸気時間の延長はICPに影響を及ぼさなかった.また,3群とも平均気道内圧は全てのIRVで有意に(p<0.05)上昇したが,最高気道内圧および血行動態は有意な変化を認めなかった.IRVでは最高気道内圧が上昇しないので,頭蓋内動態への影響が少なくICPは上昇しない.この結果は,IRVは頭蓋内圧亢進患者の人工呼吸法として有用であることを示唆した.
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