Research Abstract |
性分化異常症の出生頻度は0.2〜0.3%と高く,その特性上,家族を含めた患者側の精神的・肉体的苦痛は推し量ることのできないものである.生殖腺の発生過程は,生殖腺隆起形成期,性決定期,および生殖腺付属器形成期という3つの発生段階に大きく分けられ,それぞれの段階には多くの遺伝子の関与が明らかとなっている.その中でも,癌抑制遺伝子として知られる1番染色体短腕(11p13)上のWT-1,ステロイドホルモン合成における転写調節因子として単離された9番染色体長腕(9q33)上のAd4BP/SF-1,精巣決定遺伝子のSRY/Sry,雄の生殖腺付属器官の分化に必須の因子であるミュラー管阻害因子(MIS)が注目されているが,それらの相互の関連性は明らかではない.本研究では,最近の分子遺伝学的解析データを踏まえ,性分化関連遺伝子群とその相互調節機構の解明を試みることを目的とし,従来不明で終わることの多い本症患者の遺伝子異常の(出生前を含めた)診断および家系解析により,それらの本態を明らかにし,治療を含めた患者の管理および遺伝相談への一助となることを期待する. 臨床および細胞遺伝学的に性分化異常症が疑われた20症例において,症例により末梢血,皮膚,性腺,口腔粘膜,骨髄,あるいは羊水細胞の計48検体(ターナー症3例を含む表現型女性11例3検体,男性型9例18検体)について,必要に応じてFISH法,サザンプロット法(Y染色体17領域),全例に精巣決定遺伝子であるSRYを含むY染色体短腕末端から長腕末端の各部を認識する8座位についてPCR法を用いて性染色体の構造解析を行った[星,藤本].細胞遺伝学的手法を用いた染色体構造異常の解析では,微小マーカー染色体の由来,染色体転座における切断点や欠失の有無などを分析する上で,実際には解析不能な場合も少なくない.性分化異常症の多くは,性染色体に関連したモザイク,転座,欠失などが認められる.また,染色体には形態上の異常が認められない性の逆転患者の確認もされている.今回の検討で染色体検査のみでは不明であったY成分の有無を明らかにすることができ,性分化異常症の発症の原因がY染色体以外にも存在する可能性を示すことができた.また,多胎妊娠における性分化異常に性決定遺伝子との関連にキメリズム,モザイシスムが密接に関与することも明らかにすることができた[星,藤本]. 今後は,X染色体短腕(Xp21)上のDAX-1,17番染色体長腕(17q24)上のSOX9,WT-1,Ad4BP/SF-1を含めた,性分化関連遺伝子群の発現形態の相違を明らかにし,これらの遺伝子群の相互調節機構の解明を試みる予定である.
|